アメリカ/サンディエゴ州立大学
2019年9月
この度大真奨学生として採用いただき、サンディエゴ州立大学(米国)の水文学・水資源工学の修士課程への進学をご支援いただいております。2年間の修士課程で、授業履修・修士論文研究を行う予定です。国内のの奨学金は修士課程対象のものが少なく、米国の奨学金はUS Citizenが優先されます。大真奨学金からご支援いただいているおかげで修士課程での勉学を続けられております、本当にありがとうございます。
研究について
「水文学」は「みずぶんがく」ではなく「すいもんがく」と読み、地球上の水循環を対象とする学問です。地域の水循環の特徴(川の水はどこから流れてきているのか?流域内にはどのぐらい水資源があるのか?気候・土の特徴・人間活動が与える影響は?)を把握し、よりよい水資源管理(持続可能な利用方法とは?渇水や洪水を軽減するにはどうしたらよいか?)に活用しようという分野です。
様々な水資源の中でも、土の中に蓄えられた水は、観測や挙動の把握が難しいもののひとつです。地下水や河川の水等のまとまっていてわかりやすい水は、水文学が学問として成立したころから研究や開発の中心となってきました。一方、土壌に蓄えられた水の重要性は、近年になって強調されています。熱帯では雨が降ってきたときに出てくる水の大半が土壌の中の水であるという研究や、乾燥地域でも食糧生産に十分な土壌水分が存在していると主張する研究などがなされており、土壌中の水分は非常に魅力的な水資源だと考えています。
今月は、修士論文のテーマ決めを行い、文献調査を開始しました。現地観測と衛星観測の土壌水分データをどのように活用すれば水の流れをより理解できるか?という主題のもと、さまざまな土地利用下・気候下のデータを分析する予定です。研究主眼が自分の興味とあっている先生から丁寧な指導を受けられており、ひとまず順調な滑り出しです。
修士論文の現地調査地のひとつとして、サンディエゴ内の森林火災現場を考えており、週末に何回か下見に出かけました。協力していただく教員は非常に忙しいかただったので、私が相談をしていると横から他者に会話に割り込まれてしまったことがありました。英語で喋れるだけでなく、英語で簡潔に話や希望を伝えられるコミュニケーションを身につけなければいけないと痛感しました。加えて、農地化・都市化が激しい熱帯について興味があるので、長期休暇中にアマゾンの森林伐採と水循環に関するプロジェクトに参加できるよう調整しています。
研究補佐について
指導教員の研究補佐も行っています。現在は、サンディエゴ市内にある4河川の流れを明らかにするというプロジェクトに関わっています。毎週末、現地で川の断面積や流速を調べています。日本では山が隆起して谷に人が住んでいるという風景が一般的ですが、サンディエゴは真っ平らな渓谷の上に家が立ち並び、切り立った渓谷の下に川が流れている、という日本と逆の風景がみられます。
授業
今学期は2授業を履修しています。
「Geographic Thought」:必修授業で、地理学もとい科学にまつわる哲学を学ぶゼミと、文献調査を進める2つのゼミを行います。哲学ゼミは必修授業で、無意識に学んでいた科学の考え方を、改めて捉えなおせる講義です。例えば、気候や地形などの環境が人間活動を決定する「環境決定論」という考え方は、文明の「発達」具合や「高低差」などの論調で語られてしまったため、現在では人種差別的な理論として忌避されています。ある程度環境によって人間の社会経済活動を合理的に説明できることは事実なので、このような歴史的背景を知ることは自分の意見を構成する上で重要な観点だと感じました。
文献調査ゼミでは、自分の研究テーマに関する論文を読み毎週2本要約(Annotated Bibliography)を書く、文献調査(Literature review)を書き上げるといった課題が課されます。論理的な研究の考え方を少人数で指導が受けられるのは非常にアメリカらしいです。
「Advanced Hydrology Topics」:水文学に関する9つのモジュール(植生と地下水・水政策・積雪水文学・洪水モデリング等…)のうち、好きな3つを選び受講することができます。1モジュール目はフィールド調査方法のひとつであるトレーサー調査の授業を履修しました。
生活について
サンディエゴには8月に到着しました。サンディエゴは評判通りの穏やかでカラッとした気候で、とても気持ちよく毎日過ごせています。9月は事務的な準備や生活準備も整い、生活にある程度慣れることもでき、良い友人となれそうな学生にもたくさん出会えたので、一安心しています。素晴らしい気候のおかげで(?)、朝から夜まで勉強しても集中が続くので、10月も引き続き授業・研究と頑張っていきたいと思います。
2019年10月
修士論文
今月は文献調査を主に行い、40本程度の論文をまとめて10ページ前後のレビューにまとめました。他のネイティブの学生が、事もなさそうに綺麗な文章を書き上げているところ、私は数週間程度かけて文法・語彙の点から見劣りする文章しか書けなかったのは、非常に悔しかったです。論理構成と語彙を見直し、来月の第二稿提出までにブラッシュアップしたいと思います。
また、文献調査と並行して各国の土壌水分データを収集しました。
研究補佐
先月に引き続き、週に2~3日のペースでサンディエゴ市内の河川調査を行いました。卒業プロジェクトとしてこの研究に関わっている学部生と40地点を回り、河道断面を計測しました。2~3種類の観測機器をメンバー内で交代しながら使用することで、全員に観測の全体像の捉えてもらうことを意識し、スムーズに調査を進めることができました。
また途中、川が深すぎたり植物に覆われすぎたりしていて、正確な計測が難しい地点が多くありました。これでは当初の目的の「流れのパターンと量から、河川の水の源を探る」の達成が困難だと感じ、指導教員に相談したところ、視点を変えて「様々な状況下で手法を試すことで、手法による不確実性を比較すること」を研究主眼しても良いかもしれない、というコメントを貰いました。現実に起こった問題が目的の達成を妨げる場合、問題を解決しようと頑張るだけでなく、機転を利かせて問題を研究課題に変えられることは大事だと感じました。
授業
「Geographic Thought」:今月はモデリングの不確実性にかかわる概念を主に学びました。モデルの設定は厄介で、例えばパラメーターやモデルの構造が少し違うだけで、全く異なる結果に達することがあります。さらに、複数のパラメーターを設定するとき、違う組み合わせのパラメーターが同じ結果を導いてしまうことがあります(Equifinality)。一方で、昨今自然・人文科学のどの分野においても、また官民学問わずモデルに基づくシミュレーション結果が「証拠」として重視されます。ますます多くの人がモデリングを走らせ、その結果を解釈するようになった現在、その不確実性を教える教育は非常に重要だと感じました。
「Advanced Topics in Hydrology」:2モジュール目は、大量の写真から3Dモデルを再構築する技術(SfM)、また、リモートセンシングの基本と応用について学びました。
ハロウィン
ハロウィンがあり、私の住んでいるシェアハウスにも子供たちがいっぱいやってきました。顔も見知らぬ人の家にもトリックオアトリートをしに行くのはアメリカならではだと思います。
車社会
サンディエゴは思った以上の車社会で、車の必要性を感じています。スーパーで売っているもののサイズと重量が大きい、郊外のスーパーは安い、自転車で一般道をまっすぐ進んでいったらほぼシームレスに高速道路に繋がってしまう、土地をあまり均しておらず自転車や徒歩にとっては勾配がきつい、待ち合わせは車で…….などなど、生活の色々な側面が車を前提としています。一方で公共交通は、車を買う金銭的余裕のない人や、何かの理由で運転できない人たちのための手段といった扱われ方で、利便性も低ければ、あまり治安も良くありません。車を運転するつもりなく住み始めてしまいましたが、いつか検討してもよいかもしれないと思うようになりました。
修士論文の文献調査とデータ分析、研究プロジェクト2つ、学会準備、プロポーザル準備、授業2つと、段々と忙しくなってきました。まだ多くの文献やデータを扱える力を養うことが最重要課題であるので、視野を広くすることを意識しつつ、11月も引き続き頑張りたいと思います。
2019年11月
修論
今月は、先月初稿を提出した文献調査の第二稿を完成させました。1本1本の論文を要約するだけでなく、「論文から自分の研究テーマに沿う結果を抜き出し、一般的な論に昇華させるように」という指導教員からのアドバイスを意識し修正を重ねました。第二稿は、内容的には高く評価され、クラスメイトからも分かりやすいと言ってもらえました。英文ライティングに関してはまだまだ多くの指摘を受けたので、勉強していきたいと思います。
土壌水分のデータの分析もはじめました。土壌水分データから、土の中でいったい雨がどのように流れているかを示す「シグナル」を抜き出すのが目的です。土壌水分量は、どのぐらい土が電気を通すか測った値を変換するため、エラーや様々な影響要因が多く含まれ、それらの処理にとても時間がかかります。地道に進めているところです。
また並行して、研究費の申請書を書いています。卒論では自分で研究手法を考える機会が少なかったので、少し苦労していますが良い機会だと感じています。
冬にしか流れない川
サンディエゴでは雨季が始まりました。4~5か月の夏の無降雨期間を経て、11月の中ごろからは毎週雨が降っています。9月の河川調査で、干上がってまったく流れていなかった川(写真上)も、久しぶりの雨の後には立派に水が流れます(写真下)。このように、雨が降った時にしか流れない川を「間欠河川(ephemeral river)」といって、米国の川の6割を占めており、そのほとんどが中西部に集中しています。世界ではアフリカ大陸やアラビア半島などの乾燥地帯によく見られます(地理の授業で「ワジ」と習った人も多いと思います)。
冬一番の雨は、夏の間に河川に溜まった汚れを一気に洗い流していくため、下流の水質を一気に悪化させます(河から流れてくる水が汚すぎるので、河の水と海の水の境目が目視できます)。また、夏の間に土層が固まってしまい雨水を吸収しきれないので、乾燥地帯にもかかわらず洪水が頻繁に発生します。不規則な雨のパターンは太平洋の熱帯地方から運ばれる湿った空気(Pineapple trainという可愛い名前で呼ばれる)に依存し、その予測に多くの研究がなされています。日本にいる間は、恒久河川しか見たことが無かったので、このような間欠河川にまつわる諸問題を間近に見られることも、非常に面白く感じています。
1か月おきに来る帰省シーズン
北米ならではの年中行事といえばThanksgiving(サンクスギビング)です。毎年11月最終週に祝われ、入植者が原住民に感謝を示す収穫祭として発祥したと言われています。アメリカ人にとって、11月のThanksgiving、12月のクリスマスはどちらも家族と一緒に過ごす、日本の年末年始やお盆のような期間です。両方の休暇とも帰省する学生も多いですが、学部4年生や修士2年など最終学年の学生は、忙しいため片方だけ帰省する人が多かったです。1月おきに帰省するシーズンが来るのはなんとも不思議な感じがします。
Thanksgivingは友人と一緒にディナーを作りました。チキン、野菜、キャセロールなど、大きなオーブンで4~5皿一気に焼き上げます。レシピを習ったものの、オーブンの小さい日本で再現できないかもしれないのが若干残念です。
2019年12月
12月7日から13日にかけて、サンフランシスコで行われたアメリカ地球物理学連合学会に参加しました。地球物理に関わる研究者2.8万人(水文学だけでなく、気象学・海洋学、固体地球物理学、宇宙科学も含む)が一堂に集まる、世界最大の地球物理分野の学会です。しかし、細かく研究分野を絞ってみると、1つのホール内で見渡せるほどの人数(激しい競争を勝ち抜いた100~300人前後)しか、同一分野の研究者がいないことに気づきます。そのため、世界中にちらばった同じ分野の研究者同士がこの学会を期に集まりネットワーキングを行う、そして、異なる分野の発表にも顔を出し新しいアイデアを発掘する、という2つの目的をもって多くの研究者は参加するようです。学部時代の先生方も来ておられ、日本国内外の水文学者を紹介してくださり、私もその学会の醍醐味を味わうことができました。
私自身は、学部で卒論として携わった研究のポスター発表をする機会をいただきました。インドネシアの森林伐採が土中の流れにどう影響を与えるか?そもそも温帯と熱帯で土中での流れがどう違うのか?といったテーマで発表を行いました。他の熱帯地域の水文・植物・気象学研究者(マダガスカル、プエルトリコ、ボルネオ等から)が次の観測案やデータの見方についてアドバイスをくださりました。
また、昨年の大真奨学生の方もこの学会に来られていたので、お時間をいただき食事をすることができました。私も先輩も「物理的に洪水・渇水を表現することで予測精度を向上させ防災につなげたい」という意思が同じであったので、先輩に経験・研究・キャリア観のお話を伺え、非常に勉強になりました。研究の規模感は違っており、私は小さな流域で源流から観測をすることで、モデルに組み込まれるべき重要な水の流れを解明しようとしています。対してその先輩は、地球全体を衛星でセンシングしたデータを分析し、そのデータを活かす物理的な洪水モデルを開発しておられます。中小河川からのアプローチでは、避難計画が立てられるぐらい細かい氾濫図が描け、対してグローバルなモデルによる洪水被害推定・比較は、国・大陸規模での意思決定に非常に役に立ちます。規模感によって、研究の目的・応用に違いが出てくるのだと感じました。
2.8万人の地球物理学者
写真)オークランドベイブリッジ
様々な分野の研究者が「人間がどのように地球環境を変えているのか?どう対策すべきか?」という問いに対して、少数精鋭で最先端を切り開き、大人数で分野横断的な議論も同時に繰り広げる様子は圧巻でした。とても密で刺激を受け、来年も参加できるよう頑張ろう、もっと自分の分野も他の分野も詳しくなろう、少しでも土俵に立てるように精進しよう、と再び英気を養えた1週間でした。
2020年1月
修士論文
今月は修士論文のプロポーザルの執筆に多くの時間を割きました。今回応募するものもその一つなのですが、米国には大学院生向けの研究グラントが数多く存在します。NASA・NOAA・NSFといった大きな組織から、カリフォルニア州立大学連合の海洋学部門といった比較的小規模の団体まで、さまざまな団体が基金を設立しています。また、修士1年時から応募できるものが多く、博士課程進学を見据えていない学生でも、気軽に応募できることも特徴です。留学生が応募できるものは限られますが、米国市民権を持つ学生にとっては研究資金を獲得する機会が充実していると感じました。
研究補助
1月中は学部生が休暇中だったので、サンディエゴの川の調査は一旦休止し、指導教員の他のプロジェクトの補助(データ整理・文献調査)を行いました。プロジェクトは「同位体を用いて水源を辿る」技術を用いたものでした。水には、質量数の異なる水素と酸素の同位体が含まれており、含有比率は水源(地下水・雨等)によって違います。また、降り始めの雨と降り終わりの雨でも含有比率が異なります。水の中の同位体の含有比率を測って、連立方程式を解くことで、「この川でサンプルした水は、一体何%が地下水で何%が雨から来ているのか?」、また、「どのタイミングで降ってきた雨がどのぐらいに時間をかけて川に出てきたのか?」といった疑問に答えることができます。この技術には以前から興味があったので、研究補助を通して理論を学べ、とても楽しかったです。(余談ですが、面白い例として、ミネラルウォーターの会社が大学に「地下水の同位体サンプル」として商品提供をする事例を発見しました)。
日本の就活
2019年秋学期中に、水文学の院生を集めたディスカッショングループを作りました。隔週で学生に自分の研究について発表してもらい、毎回5~6人が参加してくれました。また、先生方もこのグループを認知してくださり、水インフラ系企業との合同イベントのボランティアとして2名のメンバーを紹介することができました。来学期も続けられると良いかなと思っています。
私自身は、卒業研究内容に加え、日本の学部4年次における卒業研究&就職スケジュールについて紹介しました(日本では卒業研究は必須、米国では選択式のことが多いです)。一番興味深かった反応は「就活はこの時期にこれをやれと明確にわかっていて羨ましい、so organized!」という反応でした。日本はスケジュールが決まった一括採用が主流なのに対して、米国では随時インターン応募し、働きながらその会社での採用を待つ、タイミングは自分で決めねばならない、というフレキシブルな仕組みのようです。卒業後すぐの入社を目指し、大学に通いながら週3日インターンに行く、また、インターン中の生活費用を考えると地元の会社を選ぶ、という状況の学生をよく目にします。就活について日本は米国型に移行しようとしていますが、インターンと学業の両立/分別、地方格差など、先に導入した国での問題点についての議論が無いまま移行してしまうと、同じような問題が発生するのではないかと憂慮しています。
2020年2月
修士論文
12~1月に取り組んできたプロポーザルはいったん完成し、今月からは本格的にデータ解析(土壌水分データのエラー処理とシグナルの抽出)に取り組んでいます。また、私の指導教員を訪ねて英国から博士課程の学生が春学期中滞在しています。指導教員も含めて3人で密なミーティングをする機会が増えたので、この機会に自分の修論をどんどん進めていきたいです。また、ジャーナルに投稿していた卒業論文がRejectされてしまったので、その修正も進めています。内容についての指摘に加えて、パラグラフライティングに関する指摘が多かったので、ライティングセンターまたは書籍を活用して改善していこうと思います。
研究補助
カリフォルニア州にとって今年は「乾燥の年(dry year)」であり、50年間破られてこなかったの少雨の記録が各地で更新されようとしています。降雨が少ないため、サンディエゴの川の調査は難航しています。雨のあとの出水を計測したいのですが、上流部分は雨が降り終わって12時間以内で水位が低下してしまうため、なかなか良いデータが取れません。「湿った年(wet year)」だった去年は雨が降り終わって2,3日経っても計測に十分な水位があったようです。もともと来年夏までの研究計画だったのですが、1年延ばして来年の降雨に期待することになりそうです。
授業
今学期も2授業を履修しています。
「Research Design」は必修授業で、研究倫理、問題と手法の設定、プロポーザルの執筆に取り組みます。クラスメイトとの質疑応答を通して、12~1月に取り組んできたプロポーザルを、4月の口頭諮問に向けて磨き上げる良い機会となっています。また、クラスメイトの研究テーマが萌芽レベルから修論レベルまで段々と具体化していく過程を見られるのも面白いです。
「Practical Hydrological Modeling」では、降雨流出モデリング(洪水・渇水・水資源量などのシミュレーションに用いる)を自ら記述し活用する力を養います。今月は簡便なモデルを用いて、カリフォルニア州東部のオーエンズ湖を例として、「湖の水位の痕跡から、気候変動を読み解けるか?」という課題に取り組みました。このように、遺跡や地層調査から、当時の水資源や気候を推定する学問を「古水文学(paleo-hydrology)」といいます。他の例では、ローマ時代の水道橋から、当時の街での水資源利用を推定するといった取り組みがあります。通常、水位計などの公式記録は20~50年程度前までしか存在しないため、このように1000年単位で水資源や気候変動について推定する方法に浪漫を感じました。
日常生活
サンディエゴは温暖な気候で知られていますが、残念ながら1月から2月にかけては朝は10度を下回る日が続き、冬服や防寒具を買い足しました。しかし昼は20度に達するので、衣服の調整が難しいです。
サンディエゴは温暖な気候で知られていますが、残念ながら1月から2月にかけては朝は10度を下回る日が続き、冬服や防寒具を買い足しました。しかし昼は20度に達するので、衣服の調整が難しいです。
2020年3月
在宅での修士論文研究・研究補助
3月第4週目は、オンライン授業への移行、大学構内立入禁止、カリフォルニア州屋内退避命令、米国市民の海外渡航中止勧告が一気に発令された、激動の1週間でした。先日中途報告した通り、無事に過ごしております。スーパーは品切れだった商品が戻りつつあります。Amazonなどの配送サービスは需要過多のため、生活必需品以外の配送を停止しています。レストランは閉まっていますが、テイクアウトとデリバリーは続けています。小規模なレストラン・雑貨店等で意識的に購買することにより事業継続支援しようとする動きも強いです。
修士研究と研究補助は在宅で行っています。心身健康に過ごすため、ビデオ通話で人と話す、生活ルーティーンを守る(起床就寝時間、料理、掃除など)、適度に運動する(散歩、ストレッチなど)の3点を心がけて生活しています。また、勉強中の緊張感を保つため、友人とオンライン勉強会を開いています。ビデオ通話でもくもくと作業する様子を映しあうだけなのですが、今のところ上手くいっています。在宅ワークは不便なこともとても多いですが、様々な人と交流する良いきっかけともなりました。オンライン勉強会に、イギリス留学中の今年度奨学生も参加してもらっています。サンディエゴ州立大学の院生の間でも、オンライン通話を通して密にコミュニケーションを続けてられています。ラボミーティングがオンラインになったことで、今まで遠隔地にいることで参加できていなかったメンバーも議論に参加できるようになりました。ただ、在宅が困難である様々な状況・環境下におり、勉強もままならない学生もいます。在宅ワークは半年以上続くとも推定されていますが、早く事態が収束することを願っています。
自室にいると気が滅入るのでリビングに机を移動させました
週末に時々近所をサイクリングしています
オンライン授業
履修している2授業ともオンラインに移行しました。どちらも小規模な授業で、教員が情報技術に明るいため、スムーズにオンラインに移行しました。全員リアルタイムで授業を受けるため、(すこしぎくしゃくするものの)以前と遜色ない活発な議論が繰り広げられています。学部生の多い授業は大規模なものが多く、学生の様々な状況に配慮し(パソコン・ネット環境の有無、時差の大きい地域に避難した学生、仕事の勤務時間が変動した学生なども多い)、録画の授業を展開している場合が多いようです。
確定申告
大学が閉鎖する以前に、確定申告を行いました。日本では雇用主が確定申告を行いますが、米国では(無収入の個人も含め)国民全員が個人・世帯単位で確定申告を行わねばなりません。大量の書類を正確に記入する必要があるため、複数の民間会社が申請補助システムを有料で提供し、多くの人がそれらを利用しています(1申請につき50~80米ドル前後)。一方、サンディエゴ州立大学では、ビジネス専攻の生徒が留学生の書類作成を補助するというシステムを運用しています。大会議室に、トレーニングを受けたビジネス専攻の学部生と、確定申告を手伝ってもらいたい留学生が一堂に集まり、専用ソフトウェアを用いて書類を作成していきます。内容の二重チェック、教員による確認、郵送の準備までしてもらえるので、非常に助かりました。ビジネス専攻の学生はボランティアとして無償でサービスを提供しますが、その代わりに確定申告の補助は授業の単位として認められます。サービスを受ける側の留学生は無償かつ短時間で確定申告を行うことができるということで、相互に有益な制度だと感じました。
普段、大学構内で見かける学生たちは、Tシャツ、ジーンズ、スウェットといったラフな格好ばかりなのですが、今回の確定申告は「ビジネス専攻の学生として顧客に対応する」ということで、みな身なりを整え、化粧をし、上下スーツで対応していました。着慣れないスーツに包まれながら責任感に満ちた表情で手伝いをしてくれる学部生の姿が印象的でした。
コロナウイルスに関しての現状報告
生活の状況
現在、米国市民は海外渡航を禁止されています。入国制限はまだ行われていません。また、カリフォルニア州全域で外出禁止令が出ています。運動と生活必需品の買い物のための外出は許されています。スーパーには、生鮮食品の在庫は豊富にあります。保存食品・衛生用品は店によって在庫が異なります。私自身は、向こう1~2か月程度の肉・米などはコロナ以前から備蓄できており、無事に過ごしております。
授業
完全にオンラインで行われています。履修している2授業とも、リアルタイムでオンラインビデオ会議に参加することで出席点が取られます。課題の量や成績評価については、学期初めにシラバスで定められたとおりに進行する予定です。よって、コミュニケーションがビデオ通話になる以外は、普段通りの授業が行われています。
研究
修士論文の研究(1)、指導教員の研究補助をしている研究(2)のどちらについても、カリフォルニア州立大学連合より、在宅で行う指示が出ています。(1)(2)どちらについても、観測データの収集を今月末に終えており、データ解析・論文執筆等、在宅でできる研究がほとんどのため、普段通り研究を続けることができています。
ビザについて
通常、米国学生ビザ(以下F1ビザ)の学生は授業に「出席」することが求められており(参考:https://studyinthestates.dhs.gov/maintaining-status )、学期中に帰国し授業に出席しない場合や帰国して5か月経過した場合は、出席記録とパスポートの入出国記録をもとに、ビザ資格を失います。ここで「帰国して米国以外でオンライン授業に出席することは、出席要件を満たすのか」というグレーゾーンがあり、今回のコロナウイルスに関する判断は、現時点で各大学に任せられているという状況です(参考:https://studyinthestates.dhs.gov/2020/03/sevp-stakeholders-read-about-sevp-adaptations-in-response-to-covid-19 )。
医療保険
加入している大学の保険は、コロナウイルスに関する治療については、通常通りカバーするという連絡が来ました。
2020年4月
修士論文
今月は、データ解析と並行して、修士論文の研究計画のオンライン審査を受けました。10ページの研究計画書と1時間の発表・質疑応答があり、その準備に多くの時間を使いました。研究計画書の文章が修士論文の良い下書きになればと思います。
授業
洪水モデリングの授業において、「集中型モデルと分布型モデルはどちらが優れているか?」というテーマのディベートを行いました。集中型と分布型モデルは、モデルの細かさが違います。集中型モデルは流域全体を1つの大きなバケツと捉える一方、分布型モデルは流域を細かいメッシュに分けてメッシュごとに物理計算を行います。集中型モデルは分布型モデルと比較して、必要なデータが少ない・計算時間が短い・システム構築が簡便であるなどの利点があり、実用に向きます。一方、分布型モデルのほうが水の流れを物理的に表現できるため、実用では集中型から分布型への転換が期待されています。両モデルの物理的・実用的な是非については、水文学者の間でも賛否がわかれているところです。今回その具体的な根拠や理由について学ぶことができ、また、教員が政府系研究機関にいたころのモデリング経験談も聞くことができ、非常に興味深いディベートでした。
大学における感染症の影響・今後の見通し
授業に関して、在籍しているカリフォルニア州立大学連合は、秋学期もオンラインで行う準備を進めています。冬に第二波の到来も警告されているため、個人的にはワクチンができるまでオンライン授業がいいなと感じています。ただ一方で、国や州レベルでは経済活動再開の指針を発表しており、カリフォルニア州では早くて7月から学校も再開する可能性がある、としています。
また、私は再来年度に博士課程に出願する準備をしていたのですが、再来年度は教職員・短期研究員などを新規に雇用しないと内定している大学が米国では多く(参考:https://www.the-scientist.com/news-opinion/universities-issue-hiring-freezes-in-response-to-covid-19-67334 )、この影響が博士学生の採用にも影響するのではないかと危惧しています。来年度の予算すらも、7月の税収決算・9月の新入学生確定まで見通しが立たない(特に留学生や州外生の数が見通せない)状況であるという旨の連絡がサンディエゴ州立大学からもありました。教育予算や大学の財政に関して、なかなか再来年はおろか、来年度までも見通せない状況のようです。
街の様子
屋内退避命令から1か月が経過し、段々と暮らしにも慣れてきました。週に1回買い出しに行くのですが、感染症対策のため、1度にスーパーに入れる人数が制限されており、15分ほど入り口で待たなければいけない場合もあります。スーパー内ではみな粛々とルールを守って距離を保ちながら買い物しています。また、時々近所の家のガーデニングを楽しみながら散歩しています(写真)。散歩していると、近所の人がにこやかに手を振ってくれます。
2020年5月
修士1年2学期目のまとめ
期末プロジェクトの提出を以って、無事春学期を修了しました。今学期は、自分の勉強・研究の効率を上げるために、工夫を重ねました。生活リズムを整える、短期・長期計画の両方を改善する、作業中に頭に浮かぶ事は全て書き下すことで思考を整理する等を習慣にできたと思います。一方で、自分の研究をうまく人に伝えられなかったこと、そして的を射た質疑応答ができなかったことが反省です。簡潔で興味深い研究紹介は、やはり一度机に向かって準備して練習してすらすら言えるようにならねばと思います。また、質疑応答については自分の知識不足が主な原因だと思います。中途半端にしか調べられていない内容には「あとで確認します」としか答えられず、人の発表に対しては自分の知識に自信が無いために婉曲表現でしか疑問を提示できなかったりと、歯がゆい思いをしました。夏休みに主要な教科書や論文をさらうことで、知識の土台を固めていきたいと思います。また、3ヶ月ある夏休みは、前半を修士論文のデータ処理、後半を北カリフォルニアの洪水と土壌水分に関する共同研究に費やす予定です。
大学における感染症の影響・今後の見通し
屋内退避命令から2か月が経過しました。私の所属するサンディエゴ州立大学を含むカリフォルニア州立大学連合は、秋もオンライン授業となることが決定しました。また、カリフォルニア州のほとんどの地域では、経済再開のレベル4段階のうちレベル2に移行し、感染リスクの低い場所(製造業、運送業、オフィス業、保育、国立公園等)は適切な感染症対策の下、営業を再開してよいとなりました(https://covid19.ca.gov/roadmap/)。ただし、感染者・志望者数が減ったわけではなく横ばいであり、この施策は経済が限界であるために、苦渋の決断を以って実行しているように捉えられます。ロサンゼルスやサンフランシスコ等の都心部では感染者数がまだ増え続けているため、レベル2への移行も完了していません。このような状況だと外出はリスクが高いように思われ、個人的には3月から続けている引きこもり生活を粛々と続けようと思っています。身の回りでは、絶対に家から出ずに宅配の箱も消毒して受け取るような一家から、ホームパーティーを毎週開いたり、ビーチにマスク無しで繰り出す人々まで、かなり意識にばらつきがみられます。
余談ですが、先日は向かいの家の小学生が誕生日だったようで、朝から彼の家の前を、風船をつけた車が10台以上次々と通過していき、クラクションを鳴らして去って行きました。屋内退避命令下の新しい誕生日パーティーの形のようで、可愛らしかったです。
Buddha in the Attic written by Julie Otsuka
なんとか今学期を修了し、屋内退避中に時間ができたため、読書を再開しています。日系3世である著者が、日系1世の女性への取材をもとに、20世紀初頭に彼女らがどのように身一つで米国に渡り、言葉もままならないまま生活に必死で慣れたのも束の間、戦中の強制収容政策に巻き込まれいく様子を描いています。実は洋書は読み切ったのがこの本が初めてなのですが、段落ごとに一定のテーマ・文章構成でつづられていく特徴的な文体のおかげか、引き込まれる絶妙な言葉選びのおかげか、非常に読みやすかったです。和訳版は「屋根裏の仏さま(ジュリー・オオツカ)」の標題で出版されています。知り合いのかたから「自分が置かれていない状況に想像力が働くような人間になる本を読みなさい」と薦められた本でした。忙しい時も時間を作って、また少しずつそのような本を読んでいきたいと思います。
「紫雲木」とも呼ばれるジャカランダ(右上)は南カリフォルニアで初夏を告げる花として知られています
2020年6月
修士研究
3月の屋内退避令の発令から100日が経過しました。今月も引き続き在宅で研究活動を進めており、やっと修士研究のデータ・分析コード準備が8割がた終わりました。まだまだ来年5月の修論提出まで気が抜けませんが、一旦ほっとしました。来る7・8月は指導教員の参加している「カリフォルニア州の雪解け洪水」がテーマのプロジェクトに関して共同研究をさせてもらえるので、次回はその報告ができたらと思います。
全国サイズの洪水モデル~日米の比較~
日米の研究ミーティングにオンラインで気軽に参加できるようになり、両国が力を入れている全国サイズの洪水モデルについて知見が深まりました。洪水研究は、以前は「流域ごとに綿密な調査をし、オーダーメイドのモデルを作る」という考えが主流でした。その結果の積み重ねにより、洪水のメカニズムをより一般化できるようになったことで、研究の主流は「全国サイズで使える洪水モデルの整備」に移っていきました。しかし、ここで問題となるのは、地域ごとの環境の違い(山地/平地、雪が多い/少ない、風が強い/弱い、火山性/堆積土壌など)がきちんと全国一様のモデルで反映できているのか?地域ごとに調整するのであればどのような調整が必要か?という点です。今の米国での指導教員・日本の学部生時の指導教員は2人とも全国洪水モデルの整備プロジェクトに携わっており、日本の全国モデル(Rainfall-Runoff-Inundation Model)も米国の全国モデル(National Water Model)も上記の問題にぶち当たっているということを知りました。両指導教員ともに「国中の流域をおおまかに分類し、分類ごとに洪水の特徴を把握し、その特徴をモデルで再現する」というアイデアで、解決策を練っているところです。日米で研究チームは異なれど、同じテーマに取り組むと似たような課題にぶち当たり、手法は違えど同じ方向を向いて前進しているというところに、真実を追求する科学の面白さを感じました。
生活の様子
今月上旬は人種差別に関して抗議が勃発し、緊張感のある日々が続きました。自宅の周辺では抗議が行われていなかったので安全だったのですが、ただの「肌の色が違うから」では済まない、米国の社会システムに根差した構造的差別であることをメディアや友人の話から学び、暗澹たる気持ちで日々を過ごしました。
赤と白を基調とした、スペイン風建築の教会に散歩に行きました
2020年7月
雪の上に降る雨(Rain-on-snow)
7,8月は、指導教員の紹介で、共同研究をさせてもらっています。研究は「西海岸の雪解け洪水」について取り扱います。背景として、米国西海岸北部(カリフォルニア・オレゴン・ワシントン州)の山地では、冬季に多くの降雪があります。しかし、ときおり太平洋から吹き付ける暖かく湿った空気が「雪の上に雨が降る(Rain-on-snow)」状況をもたらし、洪水の原因となっています。春先はもちろん、真冬にも発生し、下流の市街地に甚大な被害を及ぼします。また、気候変動によって強大化が示唆されている厄介な災害です。この現象が、今米国で幅広く使われている洪水モデルでうまく再現できているか?できていないとしたら何を改善すべきか?を解明するのがこのプロジェクトの目的です。余談ですが、昨年2月に日本の雪氷防災研究センターを2週間見学させていただいたのですが、その際の雪の観測体験が蘇り、点と点が繋がった心地がしました(雪氷研によるRain-on-snowの日本語まとめはこちらにありますhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jahs/47/2/47_119/_pdf)。
私が任された具体的なタスクは、4つある対象地域のうち2地域のデータ収集・文献調査・モデルと観測の比較です。2ヶ月しかないので、他の研究者からコードを借りたりしながら、自分の任された部分を全うできるように日々机に向かっています。ただ、他の研究者とやりとりをする中で、自らの研究能力・作業スピードを他人と比較し、日々反省を重ねています。さらに7月は日本では九州豪雨があり、前在籍していた大学の博士やポスドクの先輩方がものすごいスピードで九州豪雨の解析・報告に当たる様子を画面越しに伺い、目標の遠さを痛感するとともに、博士号を取る頃にはこうなっていたいという人物像をさらに強く思い描きました。
コンタクトレンズ検診
米国で初めてコンタクトレンズ検診に行きました。残念ながら、米国の保険はたいてい眼科(と歯科)はオプションでしかついておらず、大学が指定する留学生用保険もコンタクト検診はカバーしません。ただ、コンタクト検診は90~200ドル程度と、保険無しでも受診できる金額設定だと知り、無保険でコンタクトレンズ検診に行きました。WalmartのVision Centerに行ったのですが、眼科医の対応も良く、検診の内容も日本と全く同じで、スムーズに検診を終えました。
三密を避けてハイキングに行きました。乾燥しているため低木地が広がっています。
2020年8月
1年を振り返って
瞬く間に留学開始から1年が経過しました。特に修士1年目の後半は、社会情勢が不安定でしたが、大真奨学金は私の経済的・心理的な支えとなり、無事に勉学と研究活動を継続することができました。1年間、絶え間ないご支援をいただき、本当にありがとうございました。
申請時にかかげた目標とその達成度は以下の通りです。
[研究面] 水文学に関する幅広い分野の知識を深め、土地利用や気候がどのように水資源問題に影響を与えるかについて理解を深める。
研究については、指導教員のご厚意もあり、様々な気候の下にある流域について研究させてもらいました。研究プロジェクトの補佐や研究室のセミナーを通して、乾燥地域に属する都市部サンディエゴの川から、豪雪の北西海岸部の雪解け洪水、また、森林火災が引き起こす洪水など、様々な流域の特性について学びました。また、学部時代の指導教員も継続して連絡をくださり、インドネシアの流域についても卒業論文をまとめて論文誌に投稿することができました。修士論文では、様々な気候・土地利用下の土壌水分の比較を進めています。手法も、大量のデータを切り口を変えて分析するようなものから、泥臭いフィールドワークまで幅広く体験させていただいています。2年目は、様々な流域に関する知識をさらに蓄えつつ、まだ断片的である各プロジェクトの結果を、きちんと研究成果としてまとめあげていきたいです。
授業に関しては、1年目は専門である水文学の授業を主に履修し、基礎を固めました。2年目は、水文学に関連する環境要因を理解するため、気候学・地理情報システム等に関する授業を履修する予定です。
[英語]学術的英語の運用能力と論理的思考力の向上
上記に関して、研究手法に関する授業と、指導教員からの添削指導を通して、ライティング・スピーキングともに多くの質の高いフィードバックをいただけました。場数を重ねることにより、以前よりも構造的・具体的・包括的な文章を書くことができるようになりました。
また、身に着けたい研究能力についても視野が広がりました。英語の運用能力と論理的思考力のほかにも、問題を設定・解決する力、研究と実務の橋渡しをする視野、大きなデータを扱う技術、結果を分析する洞察力、知識の量などが、研究能力として必要です。そのような研究能力を高いレベルでバランスよく兼ね備えた先生方・学生に出会い、自分の目指す「洪水・渇水研究の分野で活躍する人物像」について理想を固めていきました。
[交流] 様々な人と臆することなく関わりあうことにより、自らの発想を柔軟にしていく
カリフォルニア州は非常にリベラルで、外国人でもアクセントのある英語でも抵抗なく受け入れてもらい、居心地良く過ごすことができました。友達や知人同士でどんな話題を喋るのか(人・学校・社会情勢・お菓子・音楽・スーパーマーケット・場所・映画・本・新聞 etc.)、何が面白いとされるのか、相手がどのような反応をするのか、自分がどのような反応をしたら伝わるのか…毎回の会話が試行錯誤と発見の連続です。まだ、話題について知ってることが少ない状況だと会話に苦労するので、少しずつ改善していきたいです。
また、1年目に発足させた「水分野の勉強をしている院生の会」を通して、学術的にも知識の幅を広げることができました。2年目はオンラインなのでどれほど人が集まるかわかりませんが、2年目も続けていきたいです。
今後の抱負
2019-2020年度は、日本を含め世界各国で、未曽有の規模の洪水・渇水が頻発しました。気候変動の影響がどんどん表れていっていることを感じ、今後自分がどのように水災害の問題に取り組んでいきたいか考えるきっかけとなりました。20年後、私が研究者・技術者として自らプロジェクトを回せるようになったときに、社会から求められるものは「気候変動の影響を考慮した将来予測と、それに基づく政策決定」から「より迅速な洪水・渇水対策の実施」に移っているかもしれません。しかし、私の専攻する流域水文学は非常に応用が効くので、需要が変化しても勉強したことは活かしていけると思います。変化する気候や社会の下で、どのように流域水文学の知識が応用していけるか、どの分野との協力が必要かといった点を念頭に、勉強・研究を続け、少しでも早く社会に貢献できるような研究者になりたいです。
大真奨学金のご支援のおかげで、毎日頭と手をめいいっぱい動かして新しいことを吸収する、充実した留学生活1年目を無事終了することができました。最後に重ねて、大真奨学金事務局の皆様に心から感謝申し上げます。