留学レポート

アメリカ/マサチューセッツ大学

2018年9月

この度大真奨学金のご支援のもと、アメリカマサチューセッツ州のUniversity of Massachusetts, Amherstで研究を行わせて頂けることとなりました。

こちらではDepartment of Civil and Environmental EngineeringのHydrology(水文学)グループ、およびNational Aeronautics and Space Administration (NASA) Science Teamに所属してNASAの衛星データの解析、これを用いた世界中の水資源量の推定や洪水・干ばつの予測等を行っていく予定です。

今回を含め今後のレポートではなるべく今回の留学の雰囲気まで多くを伝えられるよう、なるべく率直につづっていきたいと思います。今後留学される方の参考となれば幸いです。

研究とラボでの生活

こちらに到着する前に今回の渡米のきっかけにもなった、California州にあるNASA Jet Propulsion Laboratory(JPL)で研究を行ってきました。

JPLはNASAの中でも特に衛星開発やそのデータ利活用に主眼を置いた研究機関で、研究所内では次に火星に打ち上げられる無人探査機が走っていたり、ロケットを打ち上げるときのコントロールルーム(管制室)があったりします。

こちらでは今までのバックグラウンドを活かして、人工衛星のデータとコンピューターシミュレーションを組み合わせたカリフォルニアでの正確な水資源量推定フレームワークを構築してきました。一年中雨が少なく干ばつが深刻なカリフォルニアでは水資源量をリアルタイムに把握していくことが非常に重要で、今回の研究はそのような問題意識に端を発しています。

今後ともJPLのプロジェクト研究員としての活動は続きますが、頂いた機会を無駄にしないようしっかり成果を出していきたいと思います。

西海岸から東海岸へと場所を移し、こちらのラボにも正式に配属されました。日本とのラボの雰囲気の違いにもはじめは戸惑いましたが、段々と慣れてきていると感じています。

ラボメンバーの国籍も様々で、アジア、アフリカ、ヨーロッパなど多くの地域から留学生が訪れ日々研究をしています。初めのうちは言語の壁もあり(特に日常会話は速いうえにスラングで初めはほとんどわかりませんでした)中々輪に入れずなじめなかったのですが、ある学生と研究の話をしたのがきっかけで認識をしてもらえるようになり、つたなくとも皆が話を聞いてくれるようになりました。そうして話しているうちに、自分のほうでも言いたいことが少しづつ言えるようになってきています。やはり言語はその場所に飛び込んで慣れるのが一番、の様です。

チームミーティング等は非常にフランクで、その週に身の回りであったことを話すことから始まります。普段の会話でも会うたびのHow are you?からお互いの近況を話しただけで、じゃあまたね、といったことも多々。日本ではあまりない会話ですが、こうしたアイスブレーク的な会話はこちら独特の文化の様です。

チームミーティングで毎度驚かされるのは、メンバー一人一人が自分の芯をしっかりと持っていて、それが自然と尊重されていることでしょうか。私はこれがしたい、これはしたくない、私はこう思う、というのを皆はっきりと持っていて、包み隠さずすぐ言葉にしていることが多いです。(あまりにも直接的で驚くこともまれにありますが…)逆に発言をしないほうが悪目立ちしてしまうほど。

そのため最近では研究のディスカッションやミーティングの際に他の人より多く発言をするように心がけています。初めからその気で挑んでいくと、自然と批判的に議論を追うようになるので、自分がどこで引っかかっているのかがすぐにわかります。その時が発言のチャンスで、「それってこういうことですか?」、「こういう場合はどうなるのでしょうか?」などと自分の考えを議論に沿わせつつまとめていくことができます。

当たり前のことかもしれませんが、自分の苦手だった一つの行為を克服した1か月でした。

日常生活

アメリカの食生活ってジャンキーで太ってしまうかも…と来る前はとても心配していたのですが、そのようなことはないようです(もちろん、ジャンキーなものはたくさんあります。そして、そういうものほど癖になるほど美味しいです

アメリカでは健康志向が今非常に広まっていて、スーパーでもフルオーガニックが基本、商品のラベルをみても、添加物や動物実験フリーなどいかに健康志向かつ倫理的な食材かというメッセージが大々的に描かれています。そして、物価の高いアメリカにおいても食材は日本と同じかそれ以下なほど安いです。最近では3食自炊をしていて、料理に力を入れています。ほかにも、生活の雰囲気を少しずつこのコラムで伝えていこうと思います。

来る直前と到着した当初は不安の渦に陥っていて、気持ちが沈んでいることも多くありました。そんな中でも支えていただいている方々の存在に本当に助けられており、離れていることでその大切さとかけがえのなさを心から実感しました。本奨学金、そして大真の社員の方々にも多く応援していただいていることを心に刻みながら、日本人として将来世代に少しでも自分の行動を還元できるようにしっかりと結果を出していきたいと思います。

2018年10月

こちらでの生活を始めてから2ヶ月が経ち、だいぶラボにも馴染んできたように思います。

研究とラボでの生活

初めの1ヶ月こそラボメンバーと話すのも(文化的にも言語的にも)少し大変に感じていましたが、笑って冗談を言いながらご飯を食べたり休憩したりできるぐらいには馴染めてきたかと思います。特にラボメンバーとは毎日顔を合わせて一緒に課題に取り組んだり研究したりするので、時間はかかれど自然と打ち解けていきました。

ラボでの生活は密度が濃く、とても充実しています。大体朝8時前から人が集まりだし、17時頃にはほどんど人がいなくなる印象です。その分皆毎日決まった時間最大効率で研究や課題をこなしている印象でした。

夜の時間は基本的に家で趣味や料理の時間に充てています。金曜日の午後はラボメンバー全体でお菓子を食べながら団欒するソーシャルアワーがあり、そのあと皆で街に繰り出してご飯を食べたりお酒を飲んだりしに行くこともあります。

例えばつい先週はハロウィーン前ということで、Corn Maze (トウモロコシ畑を迷路にしたアメリカで有名なアトラクション)に皆で行ったり、同期の家でハロウィーンパーティーが開催されたりしていました。

さて、本業のこちらでの研究ですがコンピュータ機器のセットアップも終わり本格的に研究が軌道に乗ってきました。

現在は引き続き、人工衛星から得られるデータを洪水予測モデルにリアルタイムに取り込むことで精度を向上させる技術の研究開発を行っています。大規模コンピュータへのコード実装もおおむね終わり、いよいよ結果が出始めるのでどのような結果となるか今からとても楽しみです。

また、12月にアメリカで開催される国際学会での口頭発表という大きなチャンスをつかむこともできました。この分野でのビッグネームばかりのセッションでの発表となるので、チャンスをものにできるよう来月からしっかり準備して臨みたいと思います。

10月は中間試験に日本からの研究の依頼、こちらでの研究からワークショップの準備等、非常に多くのタスクを頂いた月でした。

一方で、自分の中での優先順位付けとペース配分が上手くいかず、日本からの研究依頼に100%のクオリティで応えることができませんでした。実際、自分の中でも手近なものから取り組んでいった印象があり期限や優先順位付けをしっかりと行えていませんでした。限られた時間の中で現実的にどこまでできるのかをしっかり自分で把握し、またそれを相手に伝える事ができなかったことを大きく反省した期間だったと思います。

11月以降は、しっかりとコミュニケーションをとりつつ質と量を担保できるように一日の時間をマネジメントしていかねばと思っています。

いま苦労していること

前回のレポートで、議論の際に予め質問を考えながら聞く事で流れをつかみディスカッションに入りやすくしていることを述べました。実際、日本にいた時よりも議論の時間に多く質問や話の切り出しを投げかけるようになりました。

一方で、突然会ったときに「この前のワークショップどうだった?良かった点と改善点を挙げてみて。」などと聞かれるととっさに答えが出てきません。エレベーターピッチまでとは言わずとも、近況や自分の意見を聞かれることはこちらで生活しているとよくあります。そんな時同期はさっと自分の考えを述べられるのですが、私はまだこれが上手くできません。もちろん言語の壁というのも大きいですが、おそらく日本語でも今の自分では曖昧な答えしか出てこないと思います。

毎日のようにこのピッチを練習できるのはとても良い機会なので、是非鍛えていきたいと思っています。

アメリカでの生活

最後のこの項ではフランクに、アメリカでの生活で面白いと感じたことを書きたいと思います。

まず一つ目は、アメリカでのスーパーのおすすめについて。多くのスーパーがありどこに行くかは人それぞれですが、個人的にはTrader Joe’sが一番気に入っています。数あるスーパーの中でもかなり安い方でありながら、品質基準管理がとても厳しくほとんどがフルオーガニックです。アメリカで生活されている方のブログ等でも多く見かけるこのスーパー、食べ物もおいしい上にパッケージがどれもお洒落。

全米展開しているので、アメリカにいらした際はぜひ立ち寄ってみてください。

もう一つはアメリカの少し面白いおかしなところです。

アメリカというと技術先進国というイメージが強いですが、カリフォルニアのシリコンバレー以外ではそれを意識することは殆どありません。むしろ日本の方が生活に浸透している技術は最先端だなと感じています。それでもアメリカで生活しているとなぜこんなところだけとても技術的なんだろうと感じることがよくあります。

例えば、トイレの入り口にはとても格好良いテンキーデジタル施錠がかかっているのに中はオンボロトイレだったり、数個しかキャッシャーがなく行くべきレジは自明なのに毎回レジ番号のアナウンスが流れてレジの上のランプが光ったり、路上の屋台なのにカードが使えたりなど。違う国で暮らすというのは毎日が驚きの連続です。

2018年11月

研究生活について

11月は12月の大きな学会を控え、その準備に追われる月でした。

国際学会でのポスター発表は経験がありましたが、国外での口頭発表は初めての経験なのでしっかりと準備して臨みたいと思います。また、様々なご縁が重なり、2019年5月にジュネーブで開催される国連国際防災戦略事務局会議にて私の開発した洪水予測システムがデモピッチされることとなりました。

私自身も会議に参加できるそうですので、国際的な防災戦略の最前線を肌で感じてきたいと思います。また、各国の官僚の方々の洪水予測システムへの反応を見たり、彼らと実際のニーズについて議論したりする良い機会ですので是非次に繋がる様な会議にしたいと思います。

こちらに来て3か月以上が経ちましたが、改めて振り返ってみると日本の研究レベルの高さを改めて感じます。こちらで活発に議論されていることも、日本のコミュニティでは既出であったりすでに発表済みであったり、というような事が何度かありました。

ただ、欧米諸国のコミュニティで議論していると彼らの輪は欧米で閉じているような印象を受けます。日本で素晴らしい成果が発表されているのに、それがこちらまで届ききっていない、という印象を強く受けました。もちろんこれは双方向的な問題で、こちらのコミュニティが閉鎖的であるという点もあります。

しかし、やはりコミュニケーションの面で日本のプレゼンスが欧米諸国に比べて劣ってしまうという点は無視できません。

どれだけ優れた成果を持っていても、やはり人間同士、コミュニケーションがしやすい方へと寄ってしまう傾向がある様です。これはビジネスをはじめ日本全般に当てはまる事で、心が近づくレベルでの高い外国語コミュニケーション能力の必要性をひしひしと感じています。

ここでの生活が少しでもそのレベルに達する一助となる様精進したいと思います。

苦労している事

ここまで毎月一つ自身が今苦労している事を書いてきていますが、今月も新しい課題がありました。今月は長めの文章を書いて提出する場面が多かったのですが、そこで浮彫りになったのがライティング能力です。

英語圏でいうライティングとは、単なるグラマーの正誤を越えて、いかにロジカルに説得力のある文章を書けるか、という意味まで含まれています。これは英語圏独特の文化だと考えていて、思い返すと日本の教育では読書感想文をよく書かせますが、相手を説き伏せるような文章の書き方はあまり教わった覚えがありません。

自分の考えをクリアに伝えるという点では同じでも、“表現”と“説得”では根本的な違いがあります。誤解を恐れず言えば、こちらの文章は鋭く攻撃的な印象を受けます。

非常に大きな収穫だったのは、私の教授が非常に明解にその構造を言語化してくれたことです。

彼らのライティングは導入、大きな問題提示、問題の限定化、解決策、フォローアップという逆三角形構造をとっていて、段落を追うごとに話題の焦点が狭まっていきます。そして、限定化した問題と解決策を有機的にかつ明示的に結びつけることで説得力のある文章を構成していきます。彼らの文章は文字通り尖っているように見受けられます。

こうした論理の構成能力はライティングによって露骨に晒されることとなりますが、根本的な考え方はプレゼンテーションでも同じです。来月のプレゼンテーションに向け、相手を説得するような論理構成は緻密で飛躍がなくこれでもかというほど丁寧な地図を聴き手に提示せねばならないということを教授から口を酸っぱくして言われています。

もちろん、日本語でもこのような文章構造は可能ですし、多くの方が同様な考えで文章を構築されていることは想像に難くありません。しかし、ロジカルライティングは言うは易し行うは難しで、自己満足に陥りがちなのは確かです。客観的に他者の目に晒されて推敲を繰り返すのみが上達の道ですが、私自身自己満足に陥らず、日常的にそういった推敲を繰り返すことのできる環境を大いに利用してライティング能力を鍛えていこうと思います。

日常生活

こちらでは11月半ばに初雪がありました。数インチにも及ぶかなりの降雪で、朝起きると外が一面の雪景色、外に止めてある車も多くが見えないほどに積もっていました。マサチューセッツは緯度が高いこともあり日本の東北と似たような気候になります。それでも11月の降雪はかなり早い方で、普段は12月終わりごろに降る様です。

気温は昼間で数度、朝晩は氷点下まで冷え込みます。緯度が高いため冬は日照時間が短く、朝晩は暗い時期が続きます。今では17時前には真っ暗になってしまうほどです。四季がある分日本と大きな違いはないですが、今後も体に気を付けて過ごしたいと思います。

2018年12月

研究・ラボでの生活

12月はいよいよ年最大の学会と期末を第二週と三週に控え、慌ただしく過ぎ去った月となりました。

まず、11月から準備してきていたアメリカ物理学連合学会は12月10日から14日にかけてワシントンD.C.で行われました。世界中から研究者が集まる地球物理学系分野(気象災害、気候変動やそれに伴う環境政策等もその範疇に含みます)では世界最大の学会で、研究者の間では年に一度のグローバルな同窓会といった意味合いも持っています。

実際、学会の裏では顔を突き合わせてのミーティングが早朝から晩まで行われ、その後はソーシャルディナーへ出かけていく研究者が大勢います。私にとっても、以前学会等で会った研究者や日本の大学時代の先生等と再会する機会となりました。

11月の報告書でも記載した通り、今回は洪水予測のセッションでの口頭発表の機会を頂き、NASAや欧州中期気象予報機関(世界最大の気象予報機関)の研究者の方々と一緒に修士研究の内容を発表して参りました。

修士ではJAXAと協働して日本域及び世界全体を対象とした洪水予測システムの開発と検証を行い、シミュレーションを用いて数日から一週間以上先の洪水を予測するシステムを構築してきました。また、日本の豊富なデータを用いて従来行われてこなかった大規模な検証を行い、洪水予測が有用であることを示しました。

世界中を牽引する他の口頭発表研究者の方々と比較するとまだまだ未熟な研究内容ではありましたが、時間いっぱいまでの質問を頂けたこともあり今後に繋がる機会とすることができたと思います。

(左)学会が行われたコンベンションセンター。世界中から研究者が集まる。
(右)世界銀行ワシントン局

また、日本の大学時の研究室で研究員をされていた方が現在世界銀行に勤務されていたことをきっかけに、世界銀行日本人職員の方との意見交換会もこの機会に行われました。この会では実際の途上国開発の文脈で何が求められているのか、現在我々が持っているシーズ技術とのギャップを埋めるためのステップについて意見交換を行いました。

個人的な印象ではありますが、我々災害予測分野でのシーズ技術領域と開発現場で求められるギャップは想定していたほど大きくはなく、適切な広報活動とユーザビリティの担保によって実現可能な範囲にあると感じました。

今後の研究でより包括的な検証を進め実用段階まで精度を向上させれば、開発現場(各国省庁)に採用されていく現実性は多分にあると現在は考えています。まずは来年5月の国連会議での宣伝や、わが国日本での運用実績の構築から始めるべく、今後も日本の研究室とは連携していきたいと思います。

学会に引き続いて期末でしたため、半年かけて行ってきた研究の総まとめも行いました。この半年ではNASAが2021年に打ち上げる新しい衛星が取得するデータを、洪水予測システムに用いている数値シミュレーションに取り込むためのアルゴリズム構築と検証を行ってきました。

この新しい衛星は世界中で水(海・川・湖)が今どこに分布しているかを毎日高解像度で取得します。この水の分布を数値シミュレーションに取り込むことで、シミュレーション内の誤差を修正しより精度の高い将来予測が可能になります。この半年ではそのベースとなる技術の実装と簡易的な検証を行ってきました。結果として、実装技術のオープンソースでの公開と当該ミッションのプロジェクトレポートに自身の検証結果が載るところまでこぎつけることができました。

今後ともより深い検証を行っていき、引き続きプロジェクトに貢献していきたいと思います。

今月の克服点

今月挙げるべきことは、やはりプレゼンテーション能力だと考えています。学会での発表を控え、初めての聴衆にいかに分かりやすくかつ興味深く、決められた時間内でコンテンツを発信するのかについて多く学ぶことがありました。

一つは、切り捨てること。

以前「プレゼンテーション・禅」という本を手に取ったことがありますが、そこでは禅の精神を比較に切り捨てることの重要性を説いています。わかりやすくしようとするあまり、コンテンツの良さを伝えたいあまり情報過多なスライド・プレゼンは学会等でも多々見受けられます。一つのスライドでの文字はキャプションを除き5単語以内、ワンスライドワンメッセージなど意識的に焦点を絞り削っていくことが必要でした。

今一つは、エモーショナルフック。

特に学会やデモピッチなどでは、聴衆は多数のプレゼンを一度に聞くため、だんだんとプレゼンへの集中度が低下していってしまいます。特に学会では決まったフォーマットで多くの人が発表するため、事前知識がない限り特定のコンテンツを差別化することは困難です。そこで差別化のために、コンテンツへとつながる小話を冒頭で披露します。そこで聴衆の共感をつかむことができれば、彼らは好意的にプレゼンテーションを捉えるようになり自分の意図した方向に聴衆の考えをコントロールしやすくなるようです。

今回の学会では、実際に自身が現場にいた2015年鬼怒川洪水の体験を話し、それを洪水予測というコンテンツへとつなげていきました。

最後は、ストーリーテリング。

文章は読み手が理解するまで繰り返し読むことができますが、プレゼンは違います。聴衆が一度も引っかかることがないよう、滑らかな一本の筋道を各スライドに通さなければなりません。そのために、必要以上に綿密に論理構成を明示した話し方をするのが効果的なようです。

きっちりと筋道が通り飛躍のないスライドは、端的な接続詞でつなぐことができます。各スライドの移り変わりに自身が接続詞を置けるかどうかをチェックし、併せて各スライド内での論理が閉じているかを確認する作業は自分以外からの校正も必要となる作業ですが、今回の場合はこれを超えたとき非常に筋道の通ったスライドが完成しました。

これら3つのプレゼンにおけるテクニックは普遍的に必要な技能なため、今後とも意識的に行い身に着けていきたいと考えています。

日常生活

アメリカといえば人種のるつぼというのは地理で既出ですが、その人種構成は都市によって大きく異なります。また、その背景にはアメリカ建国から奴隷制度、南北戦争など過去の歴史が色濃く関係しています。

例えば西海岸はもともとスペインから買い上げた土地ということが関係して、スペイン語話者が非常に多く、標識等にも英語とともにスペイン語が表記されています。また、地理的な近さからアジア系が多いのも大きな特徴です。一方でニューヨークをはじめとした東海岸ではアフリカ系の方々の割合が増えます。特に今回訪れたワシントンD.Cはエチオピアをルーツに持つ方々が全米で最も多いことで知られており、街には全米随一のエチオピア料理店が軒を連ねています。

街中で出会う人種も多様で、さすが首都といったところでしょうか。一方でマサチューセッツは根強い差別の歴史が深かったこともあり、欧米系の人種が多くの割合を占めていることは特徴的です。

それぞれのルーツが違うことから、自然その街の雰囲気、文化や建物もそれに沿っています。

例えば西海岸ではラテンらしいカラフルな平屋が多い一方、東海岸ではレンガ造りの重厚な建物が多い印象を受けます(気候的な側面も大きいと考えています)。西海岸では陽気で明るい人が多い印象を受けますが、東海岸では個人間の距離はもう少し離れていて静かな方々が多いと感じています。

州別でみても、マサチューセッツとニューヨーク、コロンビア州などそれぞれで雰囲気の違いがあります。アメリカ国内を旅するだけでも、まるで違う国に来ているように感じるのは不自然なことではないでしょう。アメリカにいらす際は、ぜひ訪れる都市の歴史や気候を調べてみると、意外な発見があるかもしれません。

2019年1月

研究とラボでの生活

こちらでの生活も早いもので5か月が過ぎようとしています。こちらでの冬は-10度を下回る日もあり、風が強い日には数分も立っていられないほどです。以前はもっと寒く長い冬が常だったようですが、温暖化の影響で最近はどうやら様子が違うようです。先週まで凍えるように寒かったと思えば、今週は薄着でも出かけられるほど暖かい(それでも数℃くらいなのですが…慣れとは恐ろしいものです)日が続いています。こちらでの11月から12月は曇天が多く日も短いため精神的に厳しい時期であることはこれまでの報告書で述べた通りですが、1月や2月になるとだいぶ晴天率が上がり日も長くなってくるため、心なしか周りも活気づいてきているようです。

さて、このような地球温暖化や気候変動などが叫ばれて久しいですが、現在の研究プロジェクトはこういった長期的な地球環境変化にかかる水資源量や人間社会へのインパクト推定に一役買っています。今回は少し視点を変えて、この観点から最近の研究について書きたいと思います。COP21でのパリ協定締結や京都議定書など多くの環境政策はIPCC:気候変動にかかる政府間パネルという場での報告書をもとにしています。実際このIPCCは世界中の科学者・技術者が気候変動に関する先端の知見を公表し、IPCC委員会がそれを取りまとめることで成立しています。地球温暖化の可能性が初めて公表されたのは1960年、ハワイのマウナロア山でのCO2観測結果と当時までの気温上昇傾向が酷似していることが発表されてからでした。それから幾十年が経過して、気温上昇が地球本来のパターンとはかけ離れていること、人間由来の排出物がそれの原因であることが多くの科学者に受け入れられていきました。

こうしたIPCCの結果をもとに、2100年での気温3度(1.5度)上昇を食い止める、などはよく言われていますがこの3度という数字はそもそもどこから来たものなのか。その答えがスーパーコンピューターを使った地球の数値モデリングです。地球のあらゆる物理を内包したモデルを、あらかじめ決められた地球温暖化ガス排出シナリオをもとに走らせ未来の状態を予測した結果、世界の多くのモデルがおおよそ3度の上昇を予見したためこの様な結果となっています。このモデル群の中には、もちろん日本のモデルも入っています。また、こうしたモデルの結果を使って各国の水資源量がどの程度変化するのか、洪水や干ばつの頻度はどうなるのか、経済活動へのインパクトはどの程度か、などが積極的に研究されてきました。

しかしながら、こういったモデルの出力は正しいとは限りません。実際、これまでの観測データとモデルの出力を比べても、大まかな傾向(地球全体の温度が上昇するなど)は捉えられているものの、細かい傾向(日本でどの程度の影響があるのか)などはあまり精度が良くありません。特に川に流れる水の量など、人間生活に直結するものの精度も正確とは言えない状態です。これは、どんな数値モデルにも必ず誤差が存在するためです。その誤差を正さない限りは局所的な気候変動による影響評価はまだまだ不確実性が高いのが現状です。

さて、現在研究しているNASAの新しい衛星SWOT(Surface Water and Ocean Topography)は、世界中の水の分布をリアルタイムに高解像度で取得します。このデータを現状のモデルと照らし合わせて、モデルの誤差を修正するのが現在の私の研究内容です。これを行うことで、観測データを得るごとにモデルの誤差が修正され(誤差情報が学習されて)だんだんと精度の良いモデルになっていきます。この技術は現在民間分野でも多く実装されているAI、機械学習と同様の数学的な背景を持っており、AIがモデルの誤差を修正していくと考えることもできます。こうして精度が向上されたモデルで再度将来予測を行うことで、より信頼度の高い気候変動予測、そしてその影響評価が可能になると考えています。何度か記載している干ばつや洪水予測も未来を予測するという意味では本質的には同じで、こうして精度が向上したモデルを用いることでより精度よく災害発生を予報することができるようになります。直接の報告ではありませんが、1月はこの研究内容について引き続き研究していた月となりました。

苦労していること

こちらに来てより驚いたことというと、IT技術の浸透速度が比較的早いということだと思います。多くの最新IT技術がアメリカ生まれということもありますが、研究者の間でも日本の民間IT企業が用いている、もしくはこれから取り入れそうなツールが多く使われています。その最たるものは社内コミュニケーションツールslackで、ラボ内でのコミュニケーションはslackを使うところが多いです。こちらは日本企業でも多くみられるツールかと思いますが、研究者の間では情報系以外では日本ではあまりまだ浸透していない印象です。また、webミーティングなどもSkype等ではなくブラウザベースで動く洗練されたものが多く使われており、実際遠隔でのミーティングも多い印象があります。こうしたツールを使ってリモートワークをしている人も多くいるようです。プログラミング言語へのキャッチアップも早く、データサイエンス分野では未だPythonを用いる人が多い一方、Pythonと同程度柔軟でかつ数百倍高速なJuliaという最新のプログラミング言語がこちらではすでに浸透してきています。こうした技術へのキャッチアップに最初はかなり戸惑いましたが、非常にダイナミックな技術環境で研究できることはありがたいですし、ぜひトレンドを学んでくるつもりで今後も学習し続けたいと思います。

こちらでの生活等

先日車に乗せてもらったとき、初めてエンジンがかからないという経験をしました。外気温が低すぎることが原因の様でした。その際は10分ほどまってかかったのですが、車種によっては外部バッテリーにつないで電気を与えないと動かないこともあるようです。それでも-20度近い車内でじっとエンジンがかかるのを待つだけでもかなりこたえるものがあります。雪国特有の経験をした瞬間でした。

また、こちらでは大統領関連の騒動によって政府が閉鎖されるという事件が起こりました。身の回りで大きな騒動になっているわけではないのですが、多くの行政機関が一時的に停止しておりそれ関連では大きな問題になっているようです。実際、NASAも例外ではなく1月に書いていた新しい研究予算提案書の締め切りが延期になるなど私にも影響がありました。なかなか日本ではありえない騒動というのもあり、こうしたことが起きてしまうアメリカが現在抱える矛盾は根が深いように感じます。中間選挙では国会のねじれが確定し、今後も大きく情勢が変化する可能性が高いと思われます。

2019年2月

研究・ラボでの生活

2月は多くの時間を教授の研究に費やしました。私の研究は教授の以前の研究をベースにしているのですが、その研究が想定外のコメントを他研究者から受けてしまい(論文査読)、その対応に追われていました。計画では学士修士で行った内容を論文化するのが2月の目標だったのですが、予想以上にこの対応に時間をとられてしまい振り返ると時間の使い方を見直す必要がありました。以前から、一つの大きな作業があるとどうしてもそれだけに時間を使ってしま傾向があり、改めて改善の必要性を感じました。

さて、こちらでの研究の話は前回ま報告書と内容が重なってしまうため、今回は論文化しようとしていた学士・修士の内容を簡単に述べたいと思います。学士・修士では一貫して洪水予測システムを開発していました。その内容は前回までの報告書で何度か述べている通りですが、気象予報の情報をもとに川にどれくらいの水が流れるのかを計算する、というのが根本的なロジックです。GoogleやIBMなどの新興洪水予測企業はこの計算に機械学習(AI)を用いていますが、これには何点か問題点があります。一つは、過去の歴史にない大洪水の予測精度が担保されないことです。機械学習は過去データから統計的に未来を予測しますが、洪水といった災害は数が少なく十分なデータ数が稼げないのが現状です。このため、過去データにない大洪水が発生する可能性は否定できず、なおかつその予測精度は低くなってしまいます。今一つは気候変動による変化を捉えられないことです。気候変動によって洪水頻度や規模があちこちで変化することが多くの研究者によって示されていますが、機械学習はあくまで過去データからの情報に依存しているため、将来の気候変動による洪水傾向の変化を反映できません。こうした理由から、我々は洪水予測に直接機械学習を用いるのではなく、地球物理を反映した数値モデルをベースに洪水予測システムを構築し、精度改善のために機械学習を統合して用いるアプローチをとっています。こうした数値モデルを用いれば、刻刻とした状況の変化を自然法則をっベースに再現できるため上記の問題点をクリアすることができます。

学士修士研究では上記のアプローチで洪水予測システムを実際に構築し、文科省と東大が共同で所管するサーバーに実際に実装、リアルタイム運用まで行いました。Webベースのユーザーインターフェースを稚拙ながら開発し、毎日3時間おきに日本域を対象に洪水予測を行い配信しています(http://apps.diasjp.net/tdjpn/)。台風など接近している際はぜひ一度ご覧になって頂けると幸いです。

今月の克服点

2月は以前から抱えていた深刻な課題点が露出した月でした。先で述べた通り、目先に大きな作業があるとどうしてもそちらに時間を使ってしまって、締め切りの決まっていない他の作業をどんどん先延ばしにしてしまう癖があります。以前の報告書でも一度報告し改善しましたが、特に今回の場合、こちらの教授からのタスクは日々目にする上に自分の現在の研究に直結しているため、地理的に離れていて目にすることが少ない日本からの研究要請をほとんど後回しにしてしまいました。自分だけの作業ならまだしも、多くの人と協働していく作業では協働者に無駄な時間を使わせることになります。こちらの作業の優先順位が高いことは確かなのですが、優先順位付けのウェイトを偏らせるあまり全く日本の研究が進まないのは問題でした。

優先順位付けでなく、たとえ締め切りが決まっていなくても締め切りを自分の中で強く持つこと、現在任せられている複数のタスクをリストアップしてその状態を常に把握しておくことの重要性を強く感じました。現地と日本、どちらからも複数のタスクを頂いているので、これらをしっかり把握したうえでどれもいい加減に残さないよう残りの期間を過ごしていきたいと思います。

日常生活

1月2月はマサチューセッツ州では豪雪の時期で、多くの期間は雪で覆われています。雪上の運転も初めは緊張しましたが、少しづつ運転の仕方が分かってきました。こちらの雪質はパウダースノーで、衝動的にスキーに行きたくなるほど雪質が良いです。実際多くの研究室メンバーが夜スキーに出かけていました。さてそんな雪ですが、ここで暮らすにはなかなか厄介な存在の様です。夜雪が降り続けると車が見えなくなるほど雪が積もるのはよくあることなのですが、ここに住む人は早朝になるとスノーブロワー(雪を風で飛ばす機械)で車周りと私有地の車道の雪を吹き飛ばします。これを怠ると、すぐに車を動かすことが困難になります。私の家の大家さんはこれを全て請け負ってくれているため私自身直接体験はしていないですが、雪国で暮らす大変さを間接的に実感しました。

そのほかでは、近くの州立公園でスノートレッキングもしました。アメリカの素晴らしいところは少し足延ばすだけで多くの自然に会えるところだと思います。イエローストーンといった国立公園はいわずもがなですが、各州の州立公園も負けず劣らずの規模で美しい自然に出会えます。これから暖かくなってくるので、少しずつこういった自然を満喫していきたいと思います。

2019年3月

研究・ラボでの生活

今月も研究についてはほとんどの時間を教授の研究の手伝いに費やしていました。反省点として、教授に対してこうした方が良いのではないか、ということを研究開始段階で伝えきれなかったことです。2か月間様々な紆余曲折がありましたが、最終的に私が当初考えていた手法に落ち着くことになり、初めから教授を説得していればより早く結果を出せたかもしれません。たとえ自分のボスに当たる人でも、大局的なゴールを考え、自身が考えていることをエビデンスと共に早い段階から提示・議論していく必要を切に感じました。

さて、今回は今季に取らせて頂いている講義についてご紹介したいと思います。今季はComputational technique for the environmental scienceという講義をとっています。Pythonを用いて自然科学のデータをどのように解析・モデル化・可視化していくかという講義で、昨年NASAのJet Propulsion Laboratoryから移動されてきた方が担当されています。彼はNASAの若手研究者の中でもその数学とプログラミングスキルで非常に有名で、そんな方からじきじきにPythonを教えて頂けるというだけあってなかなかの人気講義になっています。講義の中では簡単な計算から始まり、時系列データの解析や統計モデルの構築、ウェブベースでのデータビジュアライゼーションといったことを扱います。私自身Pythonは毎日触れていますが、独学で学んだこともあり、彼の講義からより綺麗で効率的なプログラミングの仕方を学びました。特に感動したのはウェブベースでのデータビジュアライゼーションで、たった数行のコードでユーザーインタラクティブなデータ可視化を行えるのは驚嘆の一言でした。

米国2018年度の嵐による死者数:マウスを乗せると州名と総死者数が表示されます。一般的なウェブサイトに載せるクオリティまでとはいきませんが、たった数行でここまでのものができるのは驚きでした。グループ内でのミーティングでは単純な図よりも見せられる情報量が多く重宝しそうです。

反省点

今月の反省点の述べる前に、先月の反省点について述べます。現在の自分のタスクの優先順位と期限設定(特に明確な締め切りがなく自身で進めていかなければならないタスク:論文執筆、自己学習など)について再度述べましたが、その後いくつか実践して習慣がつかめてきました。一つは常に見えるところに自分のタスクを表示させるようにしました。私はGoogleのKeepを日常的なものに、GitHubを各プロジェクトの細かいTodoリストとして使っています。もう一つは、優先順位が低く埋もれてしまいそうなタスクはもうそのタスクをアサインされた時点でこなしてしまうようにしました。毎日目に入るとToDoリストをなるべく増やしたくないので、自然とこうするようになったのですが、外的なマイルストーンや圧力がないようなタスクには自分での時間管理が必須のため、今後も続けていこうと思います。

上で具体的に述べましたが、自身より立場が上の人を説得できるようになることが大きな課題だったと思います。無論教えて頂く立場ですから、最大限教授の仰ることは反芻すべきですが、やはりメンバーそれぞれに得意分野があり、自身の知識と経験で違和感がある結論についてはしっかり意見を伝えていくことが、最終的な効率性に繋がることを再認識しました。そこで、特に今月は違和感がある点については、その旨伝えたうえで一旦持ち帰り、実際に自分の意見の根拠を集めて提示するということを何度も行いました。結果として段々と特定の分野につい信頼を得られるようになり、今では以前よりも意見を提示しやすくなりました。

日常生活

Targetなど、アメリカに住めば一度は目にする総合スーパー。電化製品からホーム用品、食品まで基本的に生活にまつわるほとんどのものが売っており、日本の感覚ではホームセンターとスーパーをくっつけた、デパート以下の総合雑貨店といったイメージです。今回驚いたのは、その安さ。Amazonよりも安く同じ品物が手に入るなんてこともよくあります。店舗在庫等を圧迫している品を安く仕入れてきて定価より安く売るといったメカニズムのようですが、お買い得な品は本当に驚くほどの値引き率なので毎度驚かされてしまいます。以前は実物を確認したらAmazonで注文、が私の買い物フローでしたが、最近ではAmazonでよい品を探してTargetに物色しに行く、と逆のフローも時折起こっています。アメリカに訪れることがあったら、一度訪れてみることをお勧めします。

2019年4月

現在、ジュネーブの国連で行われている国際防災戦略会議2019に参加しています。民間企業から各国政府まで2030アジェンダ(Sustainable Development Goals (SDGs)と仙台防災枠組み)の達成に向けて各ステークホルダーが新たな方向性を定義し合意する意義ある会議だったと思います。その詳しい模様は5月分のレポートで報告いたします。

ラボでの生活

4月はいよいよ学期末ということで、皆が各コースでのプロジェクトに追われていました。私自身は水分野におけるコンピュータテクノロジー(先月のレポートで報告したもの)を専攻していたので当該コースでのプロジェクトを進めていました。プロジェクトでは、現在洪水シミュレーションでメジャーに用いられている洪水モデルをより使いやすくするためのAPIを作成しました。一般に、モデルを動かすにはそれに入力するデータを準備する必要があるのですが、これにはかなり時間がかかります。特に昨今では数百GBのデータをプロセスしなくてはならないこともあり、大規模な計算機を用いても効率的に設計しないとそもそもデータをプロセスできないという問題が往々にして発生します。これを解決するため、最新の技術を使ってこの処理を効率的かつ再利用可能な形で達成するAPIを作成する、という概要でした。結果として、PythonとCという言語を主に用いてこのAPIを構築し、インターネット上にオープンソースとして公開しました。私個人としても自身のコーディングスキル等を向上する良い機会となり、非常に有意義なプロジェクトでした。

米国ではこのように各コースの総まとめとしてプロジェクトを求めることが良くあります。全体で求められるクオリティも非常に高く、学んだことを現場で利用できる質で実際にアウトプットする実学的思考は大変参考になります。

今月の克服点

上記でも少し触れましたが、今月は仕事の効率をいかに高めるかということについてよくよく考える一か月だったと思います。特に自身の分野の場合、ほとんどの時間をコーディングに割きます。この際、上記で作ったような再利用可能なアセットを自分で持っておけば大幅に作業を効率化できます。さらに、こうした再利用可能性を実装するのはそれを意識しないコーディングにもう数時間分の工数を追加すれば事足りることが多い印象です。初回はやや時間がかかっても、もしその作業を今後も繰り返しする必要があるならこれにより将来の作業時間を削減し、その分別の作業を実行することができ仕事の効率性はより向上していく形になります。

これはつまり問題を一つ上の抽象段階へ一般化すると言い換えることができます。コーディング以外にも一般的なナレッジにも通じていて、こうした問題の際はこう対処するのが良い、そのために必要な情報とプロセス(要素とフロー)は以下のようなものである、といったように問題と要素、フローを一般化することで種々のケースにスケールするナレッジを蓄積することが可能です。実際多くの自己啓発本に書かれているフレームワークや問題解決法、というのは別の人が考えたこの再利用可能な箱を列挙しているものがほとんどです。

口でいうと当たり前かつ簡易のように感じられますが、実際自分の中ではまだまだ改善点があると感じています。特に、自分では問題を抽象化したと思っていてもその抽象化の方向性やスケールでは結局他の問題要素に適用できない、といった事はよく発生します。また、頭ではわかっていても気づくと依然と同じことを同じ時間をかけてやってしまっていた、ということも良くあります。前述したAPIを作成する時間はこうしたことについて新たな視点を与えてくれた点でも大変有意義でした。プロジェクトを通じて考えた問題一般化とフレームワーク化の際に意識することは以下だと感じています:

解決しうる具体的な関連問題をまずは一旦網羅的に列挙すること。このフレームワークはどこまでの問題を対処するためのものなのか?

1) 実際上記で挙げた問題はどれくらいの頻度ないし確率で発生しうるものなのか?それに対する工数は?実装しやすさと確率の期待値が低いものは切り捨てる。

2) 1)で集めた具体的問題の集まりを一つの言葉で言い換えること。これらの問題はさしあたりどう抽象化できるのか?逆にこの抽象化で気づく具体的問題は?

3) 拡張性を持たせること。現在はあまり必要がない比較的工数の高い問題については、今後こうすれば実現できるという程度にとどめておき、それをメモしておく。それでもフレームワークの他大部分を再利用できることは多い。

4) アウトプットすること。頭だけでなく、実際にドキュメントといったものにアウトプットする。GithubやEvernoteはこれを効率化してくれる。特にGithubはプログラマーでなくても利用価値が高く、民間企業の人事部や企画部など非エンジニア領域でも利用されているケースがある。

例えば東大にはシケプリという先代から続く膨大な試験対策アセットが存在しますが、どれも非常に再利用性が高いです(講義に出る必要はほとんどないほど)。どれも講義での問題群を抽象化して必要な要素とフローを定義し、他人にもわかりやすい形で記述されています。また、多くのシケプリは4)の拡張性を持っており、このプリントでカバーされていないこと(Todo)とその参照先が明記されており、後輩へと受け継がれる中でそれらが補完されていきます。

一方、自分で考えた場合と比較してこうした他人の考えたフレームワークに振り回されてしまうことが多いのは特に1)が隠蔽されてしまっていることが多いからだと考えています(フレームワークとして提示されるのは3)のため)。具体から抽象化(帰納的思考)に比べて、抽象から具体化(演繹的思考)は多くの場合より労力を必要とします。だからこそ既存のフレームワークを利用する際も、この枠組みはどんな問題を解決するために設計されているのかを具体的な問題群領域としてしっかり理解することが重要だと考えています。例えば、中高の数学や理科で本質的に求められているのは、公式や定理として抽象化されたものを実際の個々の問題にどう適用するかという力だと考えています。そのために具体問題の集まりである問題集をこなす必要があったのだと思います。一方歴史や国語で求められているものの一つは要素の流れ(ストーリー)を理解する力で、これは実際に抽象化・具体化を行う際に必須になります。

あらゆる問題を郡としてとらえてオブジェクティブで考えることは作業を大幅に効率化してくれます。一方でフレームワークの理解が足りなければ、かえって多くの工数を使ってしまうことになります。今後はよりアセットを残すこと、再利用することを意識して作業をより効率化していきたいと思います。

2019年5月

2019年5月はかねてより報告しておりましたUNDRR(国連防災事務局)主催の国連防災会議GP2019に東京大学から洪水予測エンジニアとして参加して参りました。防災をキーワードに各国省庁関係者やNGO、民間企業や研究者が一堂に会する2年に一度の会合で、2030アジェンダ(Sustainable Development Goals; SDGs)および仙台防災枠組みの達成に向けたマイルストーンの共有と確認が行われました。今回の報告では全文をこのGP2019について割きたいと思います。
Sustainable Development Goalsは系譜的にはMillennium Development Goals (MDGs)の後継と位置付けられ、後者が2015アジェンダ、前者が2030アジェンダとも呼ばれます。一方で、MDGsが世界銀行と世界通貨基金(IMF)、UNDP(国連開発事務局)が主体となって作られた経済学的目標であったのに対し、SDGsは多くのそのほか多くの国連機関や科学者・NGO・民間企業・省庁からなるワーキンググループでの議論をベースに作られており、より包括的かつ広域の目標郡と位置付けることができます。実際、SDGsに記載されているゴールはMDGsのそれより遥かに多く分野、例えば従来の貧困や飢餓、衛生に加えて災害や気候変動、ジェンダー等が盛り込まれています。

そうした国連開発目標と連携する形で、わが国日本がリーダーシップをとって策定してきた世界的目標郡が兵庫防災枠組みおよび仙台防災枠組みです。防災先進国である我が国がイニシアティブをとって防災の分野における現状の課題とその解決方向性について議論してきました。GP2019はこれら国連開発目標と防災枠組みの達成状況やベストプラクティスを国連各国に共有し、今後10年の新たなマイルストーンについて議論および合意することが目的の会合です。国連加盟国で防災に関心のある官僚や防災にかかわる民間企業、NGO、研究者等が一堂に会し、議論やプロダクトのアピールを行いました。私は今回このGP2019に東京大学が開発する洪水予測システムのリードエンジニアとして参加させていただき、WMOやWFP、Googleといった同じく洪水予測やそのアプリケーションにかかわる人たちと情報交換や議論を行ってきました。WMOやWFPではForecast based financingという、予報ベースの保険の本格的利用に向けて国連各国の連携を推進しています。Forecast based financingの基本的な考えは、災害の予報が出た時点で決められた金額をあらかじめ払ってしまってそれを事前災害対策に充ててもらおうという考え方の保険です。被保険者側のメリットとしては実際に資産を失わないように支払金を使って対策できること、保険会社側のメリットとしては災害が実際に起こった際に支払う金額よりも少額の金額(一般的に直前災害対策費用<災害時後支払い額)の支払いで済むこと、行政としては住民の災害認知が予報と保険により十分なリードタイムをもって向上することなどが挙げられています。Googleや東京大学では洪水予測システムの開発運用を行っているので、こうした国連機関や保険会社との連携が今後望まれます。災害予測システムという側面では、多くの国が国レベルの運用をすでに始めています。例えばスイス気象庁では雪崩、暴風、気温、洪水、嵐といった数多くの災害を統合的に予測するシステムを運用しており、アプリを通じて国民に配信しています。またウガンダでは事前に干ばつを予測するシステムを運用し農業従事者に情報を配信しています。そのほかにもブラジルやイギリス等、多くの国が1日以上前から災害の警報を発信する統合的早期警報システムの実運用が始まっています。

一方わが国では、ハード面での防災インフラストラクチャー技術(堤防・ダム・免振技術など)は世界でもトップである一方、こうしたソフト面でのインフラストラクチャー技術の推進は世界的に後れを取っていると言わざるを得ません。我が国にも多くの予測システムや警報システムが存在しますが、それらは統合されておらず一括的な運用が行われていません。結果、多くの警報情報がバラバラに発信され、楽天やYahooといった企業が別途それをまとめてくれているといった状況です。さらに、精度を重視するあまり多くの予報が発災数時間前の予報に限られており、十分な事前防災時間を得ることができていません。今後わが国が同様に防災先進国としてのイニシアティブを維持していくには、こうしたソフト防災インフラの整備と推進をより進めていく必要があると切に感じました。GP2019では多くのベストプラクティスが共有され、それを通じて各国の防災への努力やわが国の強み弱みが浮き彫りになったと感じています。現在私の洪水予測システムでは国交省や諸外国との連携も進んでおり、今後より精度を改善するとともにこうした連携を強め、現在の研究を通じて防災大国日本に貢献していきたいと思います。

2019年6月

ラボでの生活

先月に引き続き6月も出張が多くほとんど米国にいない一か月となりました。具体的には洪水予測システム関連でのミーティング、フランスはモンペリエでのミーティング、NASA SWOTミーティング、実地観測演習などにそれぞれ1週から2週間かけて参加していました。先月のレポートでは洪水予測システム関連について国連防災戦略会議GP2019について触れました。また、7月は一か月間カナダの北極圏で河川観測を行うため、観測演習を含めた観測研究については来月報告します。したがって、今月はフランスのモンペリエおよびボルドーで行われたミーティングについて報告したいと思います。モンペリエではフランスのリード研究機関であるIRSTEAで研究を行っている二人の研究者を訪問して議論を行ってきました。彼らは私が現在研究で使用している要素技術のエキスパートで、非常に高い数学的知見をもっておられることで有名です。私の現行の結果を見せつつ、現在抱えている問題点について集中的に議論を行い、普段は得られない視点からの意見を頂く機会となりました。

続くボルドーでは現在関わっているNASAの次期衛星プロジェクトSWOTの定例会合に参加してきました。SWOTプロジェクトはアメリカの宇宙局であるNASAとフランス宇宙局CNES、そのほか欧州機関との合同プロジェクトで、そのため今回のミーティングはフランスで開催されました。SWOTプロジェクトで新しく打ち上げられるSWOT衛星は地球上にある海と川の水の分布を従来にない高解像度・高頻度で取得する目的で開発されており、結果としてこの会合には海洋学者と水文学者(川・湖の研究者)という異なる分野の研究者たちが集っています。二つの分野の研究者が集まることで双方を補い合い、化学反応的な議論が頻繁に生まれる興味深い会合でした。私の研究についても教授を通じて発表がなされ、改めて自身の研究の重要性や周りからの期待されているポイントなどを再確認しました。人数が少ないのとカジュアルな雰囲気のミーティングというのもあり、高名な研究者の方とも気軽に話しあえるというのもこの機会ならではです。このミーティングを通じてまた新たに多くの方と知り合うことができました。ボルドーはワインで有名な街というのもあり夕方になるとワインが支給され、それがまたみなの会話を後押ししていたように思います。ボルドーには1週間のみの滞在でしたが、新たな方との人脈、研究の重要性の再確認といった点で非常に有意義な時間でした。

今月苦労したこと

苦労したこと、というよりは今月意識したこととして「ひと言でいうと?」と問いかけることが挙げられます。以前の報告書で学会発表のケースについて述べましたが、今回はさらに短い持ち時間のケースです。ミーティング等で別の方に自身の研究を話すときに、できるだけ手短にかつその人の事前知識に合わせた粒度で研究をうまくアピールしなくてはなりませんでした。このエレベーターピッチがはじめはなかなかうまくいかず、特に英語だと語彙の制限もあり苦労しました。現在自分の中で一つ試し続けている方法は、1文の疑問文(5W1H)で考えることです。現在取り組んでいることを疑問形に言い換えることで目的(5W1H)を明確にし、明快な導入文を完成させるようにしています。はじめになるべくクリアに問題意識を共有することで相手側もそれを想定して聞いてくれるので、後の説明が格段に楽になったように感じました。特に今回のようなミーティングの場合、発表ではなくランチやディナータイムでのカジュアルな会話の中で唐突に話題に上がるようなケースが多いので、自身の持ち時間は30秒から多くても1分程度でした。普通のペースで話すと3文から5文程度が限界のため、最初の一文の切り口が非常に重要になります。今回のミーティングを通じて何度かトライ&エラーを繰り返すことができましたが、普段の会話でも練習できるので引き続き意識してみたいと思います。

フランスでの生活

今回は全部で2週間以上フランスに滞在することができ、腰を据えてフランスを満喫できたように思います。朝はパン屋さんによってバゲットを買ったり、昼はカフェで小さいコーヒーを飲んだり、帰りはジェラートを食べたりなど、南仏の美しい景色の中食を楽しみました。また、週末はモンペリエのお祭りに参加したりピレネー国立公園にトレッキングに出かけたりする機会があり、ミーティングに加えて充実した時間を過ごせました。特にピレネー国立公園は圧巻の一言ですので、フランス・スペインへご旅行・留学の際はぜひ訪ねてみることをお勧めします。

2019年7月

7月・8月はNASAが主導する2つのプロジェクト(SWOT/ABOVE)の観測データを集めるため、カナダ北部のフォートチップワイアンという所へ出張していました。観光地として有名なイエローナイフにほど近く、この時期は白夜、冬はオーロラの景勝地として知られています。フォートチップワイアンは世界で2番目に大きい国立公園、ウッドバッファロー国立公園が抱える主要村落であり、現在もカナダ環境省の管理下のもとレンジャーや科学者が保護・研究を行っています。また、現地にはネイティブアメリカン・カナディアンの人々が多く暮らしており、現在も伝統的な狩猟によって生活しています。

SWOTやABOVEといったNASAのプロジェクトのほとんどは人工衛星に関するものです。人工衛星は何らかのデータを取得するために打ち上げられ、日本だとJAXAが主導する位置情報衛星(GPS)みちびきやお天気衛星ひまわりなどが有名です。以前からのレポートの通り、SWOTは地球全体で水がどのように流れているのかを知るための衛星プロジェクトで、洪水・干ばつ予測や水資源管理への利用が期待されています。一方ABOVEは地球の炭素循環を知るためのプロジェクトで、我々のような炭素を含む有機物が水を通じてどのように世界を循環しているかを知り、地球温暖化対策等への貢献が期待されています。

さて、今回のレポートでは現地での生活や研究内容をこのレポートを通じて簡単にお伝えしたいと思います。

現地での研究内容

今回の私の出張の目的は、2021年打ち上げ予定のSWOT衛星が取得するデータを検証するための現地観測データを集めることが目的です。あらゆる衛星は打ち上げられる前にデータを取得するためのセンサー類の精度検証が行われますが、実際に打ち上げが成功し軌道に入るまで、生のデータは得られません。こうした生のデータが「本当に信頼できるのか」改めてチェックする工程を検証、バリデーションと呼びます。バリデーションを行うには自信をもって信頼できる、信頼度の高いデータが必要です。この高信頼性データと衛星やモデルから得られるデータを比較することで、後者の信頼性を計測します。

あらゆるデータにおいて、おそらく普遍的に最も信頼できるのは現地データ・実データと呼ばれるものです。これらのデータは実際にその場で何らかの手法(センサー、定規、バケツ、光、サンプルなど)を用いて取得され、現地で取得したという実、非常に信頼性が高いとされます。百聞は一見に如かず、あれこれ調べたり計算したりするより現地で見た方が早く正確です。こうした現地データを集めるのが今回の目的です。

実際には非常に泥臭く、毎朝ボートかヘリに乗って2,3時間ほど湖や川を渡り、Google Mapの衛星画像からあらかじめ決めておいた湖を目指します。その道で定規やドップラーセンサー(音を射出してその反射にかかった時間から深さを測る機器)を用いて深さや水の流れる量を計測していきます。湖の近くに着いたら、ドローンを飛ばして実際の湖の存在と方角を確認します(この地域では川や湖の位置や形は年々変化するため)。位置が定まったら、鉈や斧で道を作りながら湖を目指します。到着後は、ドローンで空中画像を撮影したり、ライダーと呼ばれる技術を使って湖畔の地形を計測したり、カヌーで漕ぎ出して湖底の地形を取得したり、水中の炭素を調べるために水のサンプルをとったりして、現地データをそろえていきます。こうしてたどり着く湖は、息をのむほど綺麗なものからヒルの生息するもの、蓄積したメタンによって悪臭を放つものまで様々です。

一日のほとんどを荷物の運搬やカヌー漕ぎ、森の開拓に費やすため、普段のパソコンワークとは一転、アクティブな毎日でした。大変な毎日でしたが、それ以上にカナダの自然は美しく、毎日が新しい発見と感動にあふれていました。7月の終わりには大きな川のほとりで3日間キャンプをし、多くの素晴らしい情景と出会いました。大河に沈む夕日、霧の中を進む冒険、熊との遭遇、夜まで聞こえる焚火の音。こうした大自然と隣り合わせの日々が、今回の出張の大きな思い出です。

キャンプでの夕焼け

ヘリコプターからの眺めと操縦席

LIDARスキャナーでスキャンしているところ

2019年8月

このレポートを書くのも今回で12回目、とうとう一回りしてしまいました。5月から8月は出張続きで1週間強ほどしかアメリカにおらず、スイスやフランス、日本、カナダなど様々な国へ出張する機会を頂きました。これも全て、株式会社大真が奨学金を通じて背中を押して頂いたからこそのものです。1年間、誠にありがとうございました。今回のレポートではこの1年を世界情勢と共に振り返り、次のステップに向けた方向性を示して締めのレポートとさせて頂きたいと思います。

思い返せばイギリスとアメリカでのオファーを頂いた日から目まぐるしく状況は変わりました。内定先企業との相談、オファーに関する様々な情報収集、そして大真奨学金への応募。私自身、修士に進学してすぐに就職活動をはじめ、100人以上の社会人、役員、経営者の方とお会いして、どうしたら自分の考える世界像を技術を通じて実現できるのか、様々な話を伺ってきました。そうした中で頂いた内定も将来の方向性を見据えたうえで、第一のステップとして自分の中で納得のいくものでした。そんな中頂いた米国へのオファーは、自分にもう一つの選択肢を与えました。目指すものは同じながら、どちらに初めの舵を切るのか悩んだ時期もありました。結局私は経験の貴重さから米国行きを選択し、大真をはじめ多くの方々の支えを通じて今に至ります。

昨年から今までの悩みや得られたものはこれまでのレポートに記してきた通りです。文化の違いや議論スタイルの違い、ネイティブとの圧倒的なライティング能力差に気づくなど多くの壁がありました。一方で、NASA JPLでのリサーチ、アメリカ地球物理学連合での口頭発表や国連会議、NASA Science Meeting、カナダ現地観測への参加など多くの特異な経験を得ることができました。修士の時に東大とJAXAで開発したシステムは国家プロジェクトをはじめ世界銀行のプロジェクトや企業に技術提供する方向性で国際展開が進んでいます。自分が学部4年の時にはじめたときは国内で見向きもされなかった洪水予測という技術シードが少しずつ国内・国際的に浸透してきています。こうした経験やお話を通じて、この1年は自分のやっていることが世界にほんの少しだけ影響を与えた(かもしれない)という実感と、世界の風の流れの変化をダイナミックに感じる1年でした。

世は第三次AI革命、日本では感じることが少ないかもしれませんが、米国では企業から一般の生活レベルでAIが浸透しています。パーソナルアシスタントに話しかけるのは米国では既に当たり前、企業のAI利用も高次のレベルで進んでいます。現にGoogleはAIを既に枯れた技術とまで称しています。AIの他にもIoTやMaaSなど、様々な技術やサービスが芽を出し始めています。量子コンピューティングの実現が近い今、今後は今までできなかったことが当たり前の様に可能になる可能性が大いにあります。技術は今、世界を大きく変化させようとしています。

歴史を振り返れば、大きな時代の変化は常に技術と共にあります。火の発見はホモ属の生態系内での大きな発展をもたらし、農耕技術の発展は村落スケールから大きな国家帯の形成を可能にしました。銃は織田信長に日本統一の狼煙を与え、蒸気機関はあらゆる産業を効率化し、インターネットはあらゆる情報の障壁を均一化しました。そして今、IoTとAIの台頭によって現実世界はデータによってバーチャルなインターネットと統合され、新しい世界の一角が見え隠れしています。レポートで散々述べてきた人工衛星も、結局はIoTに繋がるセンシングの一つでしかありません。あらゆるデータは取得され、解析され、予測されます。

こうした時代の変化はもはや止めることはできないでしょう。新たな社会問題を引き起こすかもしれません。しかし、これはチャンスでもあります。こうした新たな技術は今まで話し合いや枠組みではどうしても解決できなかった課題を根本的に解決する可能性を秘めています。新たな農業技術とセンシングは飢餓撲滅を、環境技術はクリーンで安定したエネルギーを、そして衛星データや地球モデリング技術は安定した水供給や災害予防を、従来にない次元で解決する可能性を秘めています。

私にとって、技術を通じて新しいインフラストラクチャーを作ることが一つの大きな目標です。中でも特に自分のもともとの専門分野である集落・街・都市とそこでの体験を作り変えたいと思っています。持続的で災害へのレジリエンスが強い都市にむけて、洪水・干ばつ予測はその一つの部品です。新しい都市は、すぐそこまで迫っています。

最後に、年間を通じて惜しみない支援を下さった株式会社大真への御礼を申し上げて、このレポート郡の締めとしたいと思います。大真なしで今の私はありません。誠にありがとうございました。