留学レポート

アメリカ/コロンビア大学

平成26年度9月

(写真:コロンビア大学での安倍総理の講演の様子)

ニューヨークはめっきり涼しくなり、過ごしやすい日々が続いております。
この一か月は授業も本格的に始まり、慣れないながらも充実した日々です。授業は今学期5つ履修することになり、まずは希望の授業がすべてとれたので満足しています。というのも、日本の大学では履修登録というのはそれほど熾烈な競争ではありませんが、こちらでは授業の履修の倍率が非常に高いため、履修登録初日は学校のシステムがクラッシュするほどの騒ぎになりとりたい授業をとれないこともあるからです。学生たちがパソコンの前に陣取り必死に更新ボタンを押すという光景が繰り広げられるのを見るのは非常に面白い体験でした。

授業は、今学期は講義形式とグループワークを組み合わせたものが3つ、参加形式のものが一つ、講義形式のものが一つという構成になっています。参加型の授業では毎回どんなことでも発言するように心がけ、教授に名前を覚えてもらえるようになりました。ただし、どの授業についてもこなさなければならない読書量が大変多いため、授業に出ていないときはひたすら課された論文や本の抜粋を読んでいるという状況です。効率よく要点をとらえた読み方ができるようになるべく、まずは量に慣れることを目指しています。

課題は通常のテストもありますが、一つの授業では政策提言を行うポリシーペーパーの書き方を学び実際に書いてみるという課題が出ました。現在のガザでの状況を改善する政策案を提示するというもので、問題が非常に複雑なものであるがゆえにペーパーを書くのは非常に困難でしたが、将来難しい問題について提言をする必要のある職業に就きたいと私が思っていることを考えれば、非常に実践的で役に立つ課題でした。
学業以外では、9月の中旬に所属するコースの学生たちで合宿があり、教授陣も参加して進路相談をしていただいたり、チームでゲームをしたりして密度の濃い時間を過ごせました。ゲームなどを通じて新しい友達も増え、授業で一緒になった際には協力して課題を分担するようになりました。

多くの人と話してきた中で一つうれしい驚きだったのは、ほとんどの人が日本に行ったことがあったり日本について何らかの知識をもっていたりしており、日本の電化製品や料理などに興味を持ってくれているということです。また、先日は安倍首相が訪米に合わせてコロンビア大学で講演会を行い、それに参加しました。日本の現在の経済政策をはじめとした様々な取りくみを紹介し強固な日米関係をアピールする内容のスピーチで、女性の社会進出や少子高齢化への取り組み、憲法解釈の変更などについての質問が会場から出ました。講演終了後には安倍首相と写真撮影を行うことができました。講演会は大変な人気で、日本の首相の話を聞きたいと思う外国人がこれほどたくさんいるということに驚くとともに喜びを感じました。

来月は試験や課題が増えいよいよ忙しくなりますが、健康管理に気を付けつつ、英語で実践的なペーパーを書いたり開発にまつわる様々な理論を学んだりするなど、精進していきたいと思います。

写真は安倍総理の講演の様子です。

平成26年度10月

(写真:セントラルパーク、学校のスポーツ施設)

今月は中間試験やグループワークの課題が多くある大変忙しい月でした。それと同時にアメリカの教育制度の優れた部分を享受できた月でもあったと思っています。

政策提言を行うポリシーペーパーを書く授業では、最初の課題の評価が思ったより低くショックを受けましたが、細かく採点されており何がだめでどう改善したらよいのかまで書き込まれていたことに加え、それらの指摘が非常に的を射たものであったためとても勉強になりました。そしてその次の課題では無事Aをもらうことができ、非常にうれしく思いました。また別の授業では開発と人権の関係について学んでいますが、各自興味のある分野についてプレゼンテーションをすることになっており、私はNGOやNPOと開発の関係というテーマで日本の東日本大震災以降の福島における人権状況とこれを改善する活動を行っているNPOについての発表を行いました。日本は「開発」と関係のないというイメージがあったのに加え地震や津波が存在しない国々から来ている学生がほとんどであったので、震災直後の様子などの動画や写真などを見てもらうことでいかに東日本大震災が大きな災害であったかを実感し、日本にも復興という開発問題があるのだということを理解してもらうように努めました。すると、たくさんの質問が出て活発な議論が行われ、終わったあとには何人もののクラスメイトや教授に「勉強になった」「興味深かった」「いいプレゼンだった」と言われ、努力が報われた思いがしました。

来学期に控えている発展途上国に実際に赴きコンサルティングを行うプロジェクトですが、昨日希望表を提出し、ジャマイカ・モルドバ・カンボジア・インド・ホンジュラスないしブルンジのうちどれかの国でのプロジェクトに志望しました。どれも面白そうなものばかりなので今から非常に楽しみしております。

ほとんどの時間を学業に割いている状況ですが、運動もかねて授業で仲良くなった友人と平日の朝にはブロンクスにある学校のスポーツ施設までバスで行ってテニスレッスンを受けたり、地下鉄でマンハッタンの中心部まで行きセントラルパークを散歩したりするなど、できるだけニューヨークという環境を楽しむようにしております。初めて海外の美容室に行って髪を切ってもらったのもいい経験になりました。

写真はセントラルパーク、学校のスポーツ施設の様子です。

平成26年度11月

(写真左:参加した講演会のパンフレット
 写真右:感謝祭のディナー)

ニューヨークは突然気温が下がり一昨日は雪も降り始め、いよいよ冬らしくなってまいりました。

11月は学業においてのみならず将来のキャリアを考えるうえでも非常に多忙かつ有意義な月でした。特に1日から6日の11月の初旬は様々な課題や中間試験の期日が同じ一週間の間に集中していたのと同時に、6日から9日まではボストンキャリアフォーラムが控えていたため目の回るような忙しさでした。ボストンキャリアフォーラムは、その名の通りボストンにバイリンガルの日本人学生が集まり3日間で企業から内定をもらうというスピード感のある就職活動のイベントです。私自身は2016年まで卒業しないので本採用ではなくインターンの応募のみでしたが、将来の国際機関で働くという夢をかなえるうえで興味のある業界からインターンのオファーをもらうことができたので非常に有意義でした。

将来のキャリアのことを考えつつ目の前の山積している授業の課題をこなすという初めての体験は今までにないレベルの集中力を要求されましたが、自分の能力を試し高め、マルチタスクへの耐性を付けるという意味でとてもよかったと思います。それだけではなく、同じ大学院に通っている日本人のみならずアメリカ人の社会人経験者(公務員や銀行員、コンサルティングなど)の方々に鍋を囲んで親身に進路相談にのっていただくという貴重な体験を通じて、人の温かさを感じ大変ではあっても周囲に助けてくださる方々がいることのありがたみを痛感しました。ここでも留学当初に感じた、自分から積極的に助けを求める、ネットワークを利用して様々な人に紹介してもらうことの重要性を認識しました。

もうひとつキャリア関連では、近年拡大してきているソーシャルエンタープライズ(社会的企業)の先駆けであるBill Draytonが学校で行った講演会が印象的でした。ひとりひとりが社会に貢献できるアクションを起こす能力があること、変化をもたらすことは誰にでもできることであって既存の枠組みにとらわれてはいけない、という非常に刺激的な内容でした。ビジネスの仕組みを使って社会に貢献する事業をするという、日本ではまだあまりメジャーではない分野に留学してから非常に興味が出てきたので、これからもっと考えを深めていきたいと思っている次第です。来学期は「Creating a Social Enterprise」という授業もとる予定です。

今月はまた、実際に発展途上国で行われるプロジェクトのグループが発表され、私はジャマイカの若者の失業率を改善するための若者の起業支援を行うクラウドファンディングのシステムを構築するプロジェクトに参加することになりました。ジャマイカでは深刻な失業率の高さが問題となっており、これが高い犯罪率にもつながるため特に若者の失業率の改善が喫緊の課題となっています。これを改善し犯罪率を下げることが国の発展に直接的につながることを考えると、今回参加するプロジェクトの重要性は高く武者震いをしている次第です。ジャマイカの主な産業は現在観光業ですが、この分野のみならずデジタルアニメーションなどの分野で若者が自ら起業するお手伝いができるだけできればなと思っています。3月には実際にジャマイカに行き現地の若者や企業、政府関係者と実際に話をすることでより効果的なシステムの構築を目指す予定です。また私たちのプロジェクトメンバーは6人ですが、非常によくバランスの取れたメンバーでこれから一緒に働くのが楽しみです。

数日前はアメリカでは感謝祭でした。家族で休日を過ごし七面鳥を食べるのが習わしですが、日本では存在しない文化なので体験したことはありませんでした。しかし今年は小さい頃からの家族の友人の招待を受けたので感謝祭のディナーを実際に味わうことができました。同級生も家族に会いに実家に戻る人々が多く、アメリカにおける感謝祭の存在の大きさを実感しました。

写真左は参加した講演会のパンフレット、右は感謝祭のディナーです。

平成26年12月

(写真:ロックフェラーセンターの
クリスマスツリーとスケートリンク)

12月は苦労と同時に得るものも多い、自分自身の留学の本来の目的を痛感することのできた月でした。授業は最初の一週で最終回を迎え、教授によってはクラスでお菓子が配られるなど和気あいあいとした雰囲気でしたが、2週目からは期末試験週間となりほとんどの学生が図書館ないし部屋にひきこもって勉強する日々となりました。私自身は、試験はそれほど多くなかったものの提出しなければならないペーパーが多く、留学の目標のひとつであった「英語で書く能力の向上」が、まさに試された月であったと感じています。

今回はグループワークを含めると4つのペーパーを提出しましたが、そのすべてについて英語で文章を書くことの難しさを実感しました。大学院には外国人留学生のために英語のライティングをチェックしてくれる学生がおり、彼らに直してもらう前と後では自分の書いたものがいかに違うかを目の当たりにするのは非常に勉強になりました。文法的には間違っていないもののぎこちない文章になっていることを何度も指摘され、なぜ直されたかは理解できるものの、いざ自分で書こうとするとなかなかうまくいかず、非常にもどかしい思いをすることが多かったです。またアメリカは引用文献についてのルールが非常に厳しく、自分の意見ではない部分はほとんどすべて引用元を示さなければならずその体裁も非常に細かく指定されているので、この方式に慣れるのも苦労の一つでした。特に今月は3月に控えているジャマイカでのプロジェクトの下調べをまとめたレポートをクライアントに提出しなければならず、引用元をきちんと示すことを重ねて要求されることが多かった印象を受けました。最初は引用元についてのルールをきちんと把握していなかったためチームメートに迷惑をかけてしまいましたが、このルールに慣れていないこと、しかし真摯に改善に努めることをチームリーダーに伝え助けを求めたところ、チームメートから手助けを得ることもできました。この数か月でわからないことははっきりとわからないと伝えできることは最大限するという真摯な姿勢で助けを求めれば同級生や教授から助力を得ることができており、非常な幸運に恵まれたことに感謝しております。

徐々にではありますが自分自身でも書いた文章のどこがおかしいのかわかるようになってきており、引用のルールも理解し使うことができるようになってきています。また自分で書くだけではなく優秀な友人たちが書いたものを読む機会も多いのでそういったひとつひとつの機会を大事にしつつ最大限吸収して書く能力の向上に努めたいと思っています。特に冬休みの期間中は時間に比較的余裕があるのでThe Economistなどよい記事が載っている雑誌などを中心に、いい英語に触れることで書く能力を少しでも改善していく予定です。

ニューヨークは12月に入り街中がクリスマス一色となり、試験期間中でなかなか外出はできないものの外に一歩出れば晴れやかな気分になるような装飾がたくさんあり見るだけでとても楽しいです。またこちらでは毎年本物の木をクリスマスツリーとして購入する家族も多いようで、道端で大小さまざまなクリスマスツリーが売られています。日本でのクリスマスとはまた違いアメリカでは家族で過ごす休日のようで、友人たちの多くは実家に戻ってクリスマスを過ごしたようです。

寒さも一段と厳しくなってまいりましたが、防寒具を最大限に利用して暖かく安全に過ごしていきたいと思っております。写真はロックフェラーセンターのクリスマスツリーとスケートリンクの様子です。

平成27年1月

(写真:雪の降った日のキャンパス)

今年は生まれて初めて新年の始まりをニューヨークで迎えることとなりました。2015年をさらなる飛躍の年にすべく決意を新たにしております。

1月は冬休みの期間が長かったものの、学期の開始ということで今後の興味や進路について考えつつ授業を選択する重要な時期であったと感じています。冬休みではありましたが、休み中も3月に控えているジャマイカでのプロジェクトのクライアントとのミーティングやグループのメンバーのうち先遣隊としてジャマイカに赴いた2人のサポートなど必要な仕事が多く、プロジェクトに関する理解を深めることができました。何よりもプロジェクトが本格的に始動するにあたって実感しているのは、チームで一体となって知恵をしぼり試行錯誤しつつ答えを導き出そうとすることの楽しさです。また、学生という立場ではあるものの、企業や非営利団体から仕事を請け負っているので仕事におけるプロフェッショナルとしての振る舞いやアメリカの企業文化を体感できるのも非常に貴重な経験になっていると思います。特に印象深いのは、アメリカにおける週末と平日の切り替えの明確さです。週末や休みの期間はよほどのことがない限りきちんと休み、連絡がつかなかったり仕事が遅かったりしても許される一方で平日はしっかり働き連絡をこまめにとり一定の仕事量をこなすことが求められている風潮というのは、必要な仕事をこなすことが何よりも優先される日本で生まれ育った私にとっては非常に驚くものでした。しかし慣れてくると、遊ぶときは遊び働くときは働くというアメリカならではのテンポとでもいうべき仕事や学業の仕方にも、ワークライフバランスを維持するという意味で良い点があるということを実感しています。

今学期は実務的かつ今まで学んだことの無い分野を中心に履修する予定です。特に先学期から、日本ではまだあまり認知されていない「ソーシャルビジネス(社会的企業)」の立ち上げに興味をもつようになってきているので、社会的企業を運営し成功させるにはどうすべきかを中心に扱う授業を履修できることになり非常に楽しみにしております。またより現実的に企業というものをとらえるべく、ビジネススクールの授業に近い会計や企業の資金調達などを重点的に学ぶ授業も取ることになりました。その一方で交渉のテクニックをロールプレイング方式で実践的に学ぶ授業や、発展途上国の経済発展を定量的に捉えて学ぶ授業もとることになり、今学期は今興味を持っている範囲をすべて網羅した充実したものになりそうです。3月のジャマイカでのプロジェクトは失業率の高いジャマイカにおける若者の起業支援という難しいテーマではありますが、問題の根源はどこにありどうやったらこれを解決できるのか、グループで考え実現させるということに非常にやりがいを感じているので、積極的に話し合いに参加し苦手意識のあるライティングにも取り組んでいくつもりです。来月から授業も本格化し課題も多くなりますが、最大限の経験と知識を得るべく全力で努力したいと思っております。

写真は、雪の降った日のキャンパスです。

平成27年2月

(写真左:UNFPAの説明会で配布されたパンフレット
写真右:学校のイベントでコンサートを聴きにいったカーネギーホール)

ニューヨークはいよいよ寒さが厳しくなり、気温が氷点下16度まで下がる日もあるほどです。天候についての市による警報発令が頻繁になされたり路面凍結を防ぐ薬剤の散布が日常的に行われたりする様子を見ながら、ニューヨーク市の冬場の危機管理の意識の高さに感心していたところ、アメリカ人の友人に「それは路面で滑って怪我をした人が市を訴えるのを防ぐためだ」と言われアメリカの訴訟社会の一面を垣間見た気がしました。

2月は授業も本格的に始まり、課題やリーディングに追われる日々でした。今まで主に人権や政治理論など定性的な勉強を中心にしてきたため、データや数字を用いて定量的に物事を捉え分析する勉強が多い今学期は慣れないことも多く苦労もありますが、その分新しい頭の使い方ができるので非常に刺激的です。これまで学んできたこととのバランスが取れ、より多面的に世界を見ることができるようになるという意味でも有意義だと感じています。

特に経済発展にまつわる様々な経済理論を扱う授業では、いわゆる理論だけではなく近年の統計データを用いて途上国の教育をめぐる状況を捉える論文などに触れることも多く、なぜ目の前の現状が起こるに至ったかを分析しどうやって改善していくかを考える努力をするという学問の実務的な側面を学んでいます。ほかにも、会計とコーポレートファイナンスの授業ではいかに企業の経営状態を分析し経営の改善を図るかを様々なモデルを用いて考えるという今まで学んだことの無かった新たな問題解決の手法を勉強しており、新しいことを吸収する毎日です。数字と向き合いつつもその会社の性質や人にも目を向け分析していくという思考方法は将来のキャリアを考えるうえで非常に有効なツールの一つになるのではないかと感じています。

交渉の手法を学ぶ授業では、いわゆる私たちがイメージするアメリカの敵対的な交渉術というものは実は有効ではなく、相手の表の立場を超えて真に欲しているものを見極めることでお互いが満足いく交渉結果を導けるということを学びました。これも将来必ず役に立つであろうスキルなので、英語でも相手としっかり対等に交渉をする能力を身につけたいと思います。

また学業以外では、国連機関の一つであるUNFPA(国連人口基金)の採用説明会に参加し、UNFPAの活動について理解を深める機会を得ることができました。UNFPA以外にも国連職員になるために求められる資質や能力についてのお話を伺うこともでき非常にためになりました。また日本人の国連職員は恒常的に不足している状況であることを改めて採用担当の職員の方から強調され、将来日本の代表として国際機関で働くという決意を新たにしました。

最近はジャマイカのプロジェクトメンバーの間での議論も活発になりより良いものを作り出すべく協力できるようになってきました。来月はいよいよジャマイカへの渡航が控えているので、体調管理も含め準備を怠らずジャマイカでの日々を有意義なものにしたいです。

写真はUNFPAの説明会で配布されたパンフレットと、学校のイベントでコンサートを聴きにいったカーネギーホールです。

平成27年3月

(写真左:ボブ・マーリー 写真中央:日本車の宣伝をする街中の広告
写真右:キングストンの町)

4月も近づいておりますがニューヨークでは相変わらず寒い日が続いており、時折雪も舞うほどです。数日前にキングストンから戻ってまいりましたが、気温の差に驚いています。

ジャマイカでは、貴重な機会に多く恵まれた非常に密度の濃い時間を過ごすことができました。私の所属するチームの課題はジャマイカにおける若者の起業支援をするためにクラウドファンディングのオンラインプラットフォームを設計し、長期的にはジャマイカにおける若者の失業率の改善に貢献するというものです。11月から今までの調査をもとに、ジャマイカで起業しようとする若者が直面する障壁は何かを特定し、これを取り除くには何が有効か、このプラットフォームがどのようなものであるべきかをチームで考え抜いてきました。今回のキングストンへの渡航の目的は、私たちが設計したものがどれほど実際に現地の人々のニーズに応えられているかを確かめると同時にこの案の実現において重要な役割を果たす諸機関に支援を得られるかを打診するためでした。

様々な人々と出会い話を聞き、またキングストンの街を実際に歩いて何よりも強く感じたのは、いかに発展途上国の現状を変えるのが困難かということです。変革をもたらし発展するためには外部の力だけでは当然ながら不十分であり、当事国の政府並びにその国民が一体となって動く必要があるということ、そしてこの「一体となって動く」ことがいかに難しいかを痛感しました。この難しさは二つのレベル、組織レベルと個人レベルにおいて特に顕著であったと思います。

たとえば政府や銀行などの組織レベルでは、省庁間や組織間に政策の対象について意見の齟齬があるゆえに政策が誰のためのものなのか、またどの機関が実行段階を請け負うのかが明らかではなく政策の遂行が困難になっている状況がありました。世界銀行の方々と政府関係者の会合に出席する機会にも恵まれましたが、第三者機関として政府に提言をする世界銀行の有効性についても考えさせられました。提言をするだけでは、様々な機関がそれぞれ異なる政策目的を掲げている中で国民の本当のニーズを見極め、これに沿った政策を実行する段階まで実現することは非常に難しいのだということがわかりました。

一方で個人レベルでは国民の政府への信頼性が低いために政府の施策に対して抵抗があるということもわかりました。同時に国民レベルでの国の発展への気概も経済発展においては重要なのではないかと思いました。というのも、ジャマイカは2008年の金融危機以降主要産業である観光業とボーキサイトが打撃を受けたためGDP成長率が0.1%でほぼ横ばい状態であるのですが、そのせいか人々の態度からは経済発展に向けて努力しようという気概のようなものは感じられず、むしろ現状には満足していないものの外国人観光客からできるだけ外貨を得ることで妥協しているといったような半ばあきらめたような停滞した空気があったからです。景気の停滞が人々のモチベーションの停滞を招き、これがさらに経済の停滞を招くという悪循環がそこにはありました。

またカリブ地域の文化や生活に触れるという貴重な体験もすることができました。その中でもジャマイカにおける日本車の人気の高さには驚きました。日本の車は良質なものとしてのステータスが確立されており、店先に日の丸を飾っている販売店も見られるほどです。また高級住宅地が散在する一方でスラム街のような最貧困層の人々が住む地区もあり、所得格差の大きさも痛感しました。
現状を変えることは想像よりもはるかに困難なものであったものの、政策が与える影響の大きさからやりがいもあることを再認識し、一方でジャマイカの発展のために企業をしたと語る若者や、政府機関としてできるだけ若者の雇用を創出したいのだと語る官僚の方などと出会う中で、たとえ少人数でも国を変えたいと思う人々がいるならばその手助けをするべく、将来はやはり途上国支援に関わる職業につきたいと考えを強めた次第です。今回の体験を糧に、よりよい開発援助の形とは何なのか、自分なりに考えを深めていきたいと思っています。

写真はジャマイカを代表するレゲエ音楽のミュージシャンであるボブ・マーリーと、日本車の宣伝をする街中の広告、そしてキングストンの町の様子です。

平成27年4月

(写真は社会的企業の授業の発表会のポスターと、
暖かくなり人にあふれている週末のキャンパスの様子です。)

ニューヨークはようやく春らしくなり街の随所に桜が見られるようになりました。留学も終わりに近づきつつありますが、最後まで学ぶ機会に多く恵まれていると感じています。

ジャマイカでのフィールドワークを終え、今月はプロジェクトの最終報告書を書き上げることに力を注いでいます。プロジェクトの依頼主にとって何が報告書として有効か、どのように提言をすればもっとも実現可能性を高めることができるかなど、一口に報告書と言っても考えることが多く連日チームメートと編集を繰り返す日々です。一見本質的ではないようですが、真剣に考えてきた結果が現実に反映させるためには必要不可欠であることを実感しています。

社会的企業のビジネスプランを考案する授業では、定年退職を迎えた人々の生活を豊かにし活動的な老後を過ごすお手伝いをするという目的のもと快適かつ有意義な途上国への長期滞在をあっせんする企業のビジネスプランを書いているところです。グループのメンバーとともに一歩ずつ思い通りの会社にしていくというプロセスは今まで経験したことの無いもので、思った以上に想像力と創造性が要求されるので非常に新鮮に感じています。またビジネスプランといっても考えるべき要素が多くあり、ジャマイカでのプロジェクトと関連して起業することの難しさを自ら体験できています。

交渉の手法を学ぶ授業では、いくつものステークホルダーがいる様々な状況でいかに合意を形成するかというシミュレーションを行いました。特に印象に残ったのは街づくりの方向性を巡って異なる意見をもつ6人のグループで行った交渉で、当初は合意することが不可能に思われたにも関わらずお互いの話をよく聞いたうえで駆け引きをくりかえしたことで合意に至ることができ、相手の話に耳を傾け自分の利益をいかに実現するかをある種現実的に捉えることがいかに重要かを理解することができました。現実ではさらに複雑な状況になることを考えると、合意に至ることの難しさを体験できたのは非常に有意義だったと思います。

また、開発経済の授業では世界の様々な国々がなぜ経済的に困難に陥るのかを一つのモデルを使って説明するという内容を学んでいます。必ずしも包括的な説明にはなってはいないものの、世の中で起きていることを説明する一つの手段として世界経済がなぜ混迷に陥り国が金融危機に瀕するかを理解するには役立つものだと感じています。またマクロ的な経済モデルだけではなく実際のデータに基づいた論文なども読む機会があり、大学の格付けが学生の将来に及ぼす影響をどのようにして統計データをもとに測るかなど、実践的な経済学の側面にも触れることができ非常に興味深いです。

学業以外では今月の初めに卒業する二年生を送り出すダンスパーティーがあり、きらびやかな場で盛装し友人たちと楽しい時間を過ごす機会にも恵まれました。勉強からのいい息抜きになったのと同時に、同級生たちの勉学と遊びの切り替えの速さにも見習うところが多くあると感じました。

今学期の授業も終わりに近づいており、来月は期末試験や最終レポートの提出期限が多くなりますが、最後まで気を抜くことなく最大限学んで帰国したいと思っています。

平成27年5月

(写真左:卒業式でのケネディ大使 写真右:卒業生たちの様子)

この報告書も今月で最後となってしまいました。留学の終わりを迎えニューヨークを離れるにあたり、この1年で得られた経験の貴重さを改めて感じています。

5月は春学期の終わりであり期末試験や最終レポート、引っ越しの準備で慌ただしい日々を過ごしていました。ジャマイカのプロジェクトもいよいよ最終局面を迎え、各メンバーが忙しい中自分のできる範囲で最終報告書を仕上げることに貢献し、納得のいく成果物を提出することができました。その中で、プロジェクトが始動した当初に比べチームが団結しお互い話し合い協力できるようになったことを実感しました。一方で社会的企業を設計する授業のグループワークではなかなか作業を進めることに協力してくれないメンバーがいたため時間通りに課題をこなすことが難しくもどかしい思いをしましたが、忍耐強く自分のできることをやり各メンバーの仕事を管理することを学ぶいい経験になりました。

期末試験のうち一つは5時間以上にも及ぶものでしたが、丸暗記をして臨むというよりは授業で学んだことを実践的に応用し現実の事象を分析するという種類のものだったので、試験ではあるものの非常に新鮮で興味深かったです。他の期末試験についても、自分のできる最大限の力を発揮することができたので満足しています。

大学院の卒業式ではケネディ駐日大使による来賓挨拶を聞くことができました。戦後からの日米関係を例に挙げながら歴史認識と和解に基づいた国際協力がいかに大事か、またTPPに代表されるように世界が経済活動を通じていかに不可分一体で複雑なものになってきているかに触れたうえで、この時代において世界的な問題解決に取り組む人材が非常に重要であり、その点で卒業生である私たちのこれからに期待しているという趣旨のスピーチでした。内容とは裏腹に、柔らかな口調でユーモアを交えて話す大使の姿が印象的でした。また式典には卒業生の家族や友人など多くの人が集まり、卒業生は帽子とガウンを着て盛装しパーティーなども催され楽しい時間を過ごすことができました。

この1年間はこれまでで最も密度が濃く成長する機会に多く恵まれた時間でした。日本の大学院では学ぶことのできない実践的な分野についての理解を深めることができただけでなく、自らの意見をきちんと述べつつも相手の意見に耳を傾けるという習慣、受け身ではなく積極的に質問し教授や友人たちと関わる姿勢などを吸収することができたと感じています。今まで自分にはできないと思っていたようなことに挑戦し自分のできることを最大限努力すること、何よりも物おじせず自信をもって問題に立ち向かうこともまた今回の留学で得られた非常に重要なものだと思っています。

日本を離れニューヨークで友人たちと勉学に励む中で外国から見た日本を認識するにつれ改めて日本人としての自分を意識すると同時に、日本人として世界にどのように貢献できるかを様々な側面からとらえ、これからの進路についての考えも深めることができました。そして何よりも、この留学で得られたものを必ず日本のみならず世界に還元し少しでも世の中の役に立つ人になろうという決意を新たにしました。6月には帰国しますが、この気持ちを忘れずこれからも努力を続けていきたいと思っております。